はじめに

新規上場(IPO)銘柄の初値が好調です。

IPOとはInitial Public Offeringの略で、不特定多数の投資家が参加する株式市場において、株式の売買が可能となることを意味します。それまでは家族ですとか、志を一にする同士など、いわば身内の集まりであった私企業が、IPOを機に公器となるわけです。

上場に当たって企業は、新株を発行して広く投資家から資金を調達するのが一般的で、その際の株価が公開価格です。IPOする企業は上場前に、幹事の証券会社を通じて公開価格を提示し、資金を募ります。そして上場日に、取引所を通じて株が売買されるのです。

2017年のIPO89銘柄は、公開価格に対して1銘柄平均で2.1倍の初値が付きました。公開価格は将来の収益、既上場の類似銘柄との比較、当該IPO銘柄に対する需給動向などを総体的に勘案されて、通常は本来の価値よりも割安に設定されているケースが一般的です。けれども、さすがに半額ディスカウントの設定は考えにくく、足元のIPO人気がうかがえるところです。


企業にとってIPOのメリットは?

IPOする企業の目的には、まず資金調達の多様化があります。それまでの運転資金を銀行から借り入れる「間接金融」のほかに、非上場時に比べるとPO(公募増資・売り出し)により新株を発行する「直接金融」の手法がとりやすくなります。

また、上場自体が1つのステータスといえます。企業が成長していくに従い、取引先企業も大企業、上場企業が中心になってくれば、自社もIPOして上場企業の仲間入りをする必要に迫られるかもしれません。

知名度の向上も重要です。IPOによって広く社名が知られるところとなれば、企業規模の拡大とともに、優秀な人材を採用しやすくなります。人手不足の状況下、IPOは人材獲得に大いに役立ちます。

IT、外食、小売りなどが常連

それでは、どのような業種がIPOしてくるのでしょうか。

2017年のIPO89銘柄を業種別で見たものが下図です。業種分けの基準は情報ベンダーのQUICKですが、「サービス」が24銘柄、「情報・通信(IT)」が23銘柄と双璧をなしています。

「サービス」には飲食業・小売業や、IT関連に近しい内容の銘柄も含まれていますので、「小売り」の10銘柄と併せ、小売りや飲食、IT関連がIPO銘柄の中核をなしている業種です。

これらの業種は、相対的にビジネスチャンスに恵まれていると考えます。

たとえば小売業であれば、低価格品の選別や高級品嗜好など、景気動向によって消費者の好みが大きく変わります。外食についても、流行り廃りが激しい業界といえるでしょう。こうした時流に乗って成功すれば、IPO への道が開けます。

IT関連については、インターネット環境が整備され、通信費も大幅に下がっているため、経営者のアイデア1つで、創業後の短期間でIPOにこぎ着けるケースが目を引きます。

中身をよく見て、ゆっくり慌てず

特に昨年のIPOでは、IT関連においては人口知能(AI)が大きなテーマとなりました。

東証マザーズ市場へ9月22日にIPOしたPAKSHA Technology(パークシャテクノロジー、証券コード3993)と、11月21日に新規上場したサインポスト(3996)は、その代表格といえるでしょう。両社ともに公開価格を大きく上回る初値を付け、その後の株価も堅調です。

パークシャは自動運転で活用されるアルゴリズムにAIを活用しており、トヨタ自動車(7203)の出資が報じられました。サインポストはAIを取り入れた小売業向けの無人レジの開発を進めており、東日本旅客鉄道(JR東日本、9020)のJR大宮駅のイベントスペースにおいて、無人コンビニエンスストアの実証実験が行われました。

ITやバイオ医薬品など、IPOする企業は魅力的な技術やビジネスモデルが多い半面、その実力を素人が推し量るには無理があります。そうであるならば、著名で実力ある企業が、IPOする企業にどのようなアプローチをしているかを知ることが、実力を知る道しるべとなりそうです。

いちよし証券では、今年は昨年を上回る95銘柄のIPOを予想しています。すでに3銘柄がIPOしましたが、いずれも初日に初値が付かないほどの人気が続いています。今後も続々と魅力的なIPO銘柄が出てくることでしょう。

一方で、初値が好調ながら、実力が伴わず、「初値天井」となるIPO銘柄も少なくありません。続々と出てくるならば、はっきりと中身がわからないものには手を出さず、「次のIPO銘柄でいいや」くらいの余裕を持った投資スタンスが、IPO銘柄投資成功への近道のような気がします。

(文:いちよし証券 投資情報部 宇田川克己)

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