はじめに
連日盛り上がる五輪だが、リアルタイムで見る人が減少している?
連日、日本人のメダルラッシュが続いたリオ五輪も閉幕。しかし、視聴者の状況に異変が起きているようです。ドキドキハラハラしながら五輪をテレビ観戦する人の数が減っているようなのです。私は最初は時差のせいかと思っていました。主要な競技の決勝が行われるのが日本時間の未明の時間帯になるため、ほとんどの日本人が朝起きて新しいメダルが獲得されているのをニュースで見ることになります。
そうするとニュース映像でメダル獲得の瞬間だけを観てしまうことで、なんとなく満足してしまい、リアルタイムでアスリートたちの戦いを見る人口が減ってしまう。そんな現象が起きているのだとばかり思っていました。
ところが、この現象、どうやら日本だけの現象ではないようなのです。
アメリカでは視聴者数の減少が問題に
リオとほとんど時差がないアメリカで激震ともいえる数字が発表されました。リオ五輪の開幕式の視聴者数が2650万人と、ロンドン五輪の開会式の視聴者数4070万人を大きく下回ったのです。ロンドンとアメリカは5時間の時差があります。ロンドンの午後8時はニューヨークの午後3時、ロサンゼルスの正午です。昼間の時間帯にピークがくるロンドン五輪は、アメリカの中継では盛り上がりにくいわけです。
それに比べて時差が1時間とほとんど関係がないリオ五輪は、普通に考えれば視聴者数は増える要因こそあれ、減るはずがないと五輪開幕前には誰もが思っていました。ところがフタを開けてみると、まさかの視聴者数が3分の2以下への減少という結果が起きたのです。
視聴者数の発表を行ったのはアメリカの視聴率大手のニールセン。この結果を受けて、アメリカでオリンピックの独占放映権を持っているコムキャスト(ケーブルテレビ大手で三大ネットワークのNBCの親会社)は独自の視聴率を発表しました。
スマホ五輪の影響が視聴スタイルを冷めた方向へと変えた?
コムキャストが発表したのは独自の「総合視聴者数」という指標。これは地上波のNBCだけでなくコムキャスト傘下の8局やインターネット上のストリーミング配信の視聴者数を加えて計算したものです。ところが皮肉なことに、コムキャストがこの総合視聴者数の発表を始めたところ、初日から5日目まで、結局のところ1日もロンドン五輪の視聴者数を上回った日がなかったのです。
この状況をアメリカでは「スマホ五輪」時代の到来だととらえているようです。ほとんどのアメリカ人がスマホを持ち歩くようになってから初めての五輪。試合結果はSNSを通じて即座に拡散し、その情報を受け取った人は試合結果やハイライト映像をスマホで確認する。
スポーツへの関心が、かつてのリアルタイムでの応援から、スマホ時代の結果の確認へと急速にしぼみはじめているのです。
このまま冷めるだけではない?VR革命への期待感
NBCとその親会社のコムキャストは昨年5月に、2032年までのオリンピック放映権の延長契約に調印しました。これまで2020年の東京五輪までの権利を持っていたところから、さらに夏冬あわせて6大会分を総額7800億円で契約延長したのです。単純計算で1大会あたり1300億円の大型契約。強気のコムキャストと比較して、コカコーラやマクドナルドなどグローバルの大型スポンサー企業たちは現状にあまり良い顔をしていないそうです。
とはいえ次回の2020年東京五輪はスマホ五輪からさらにその先の五輪になると予測されています。
おそらく2020年五輪は世界で初めて本格的なVR五輪になると予測されます。自宅に居ながらにして五輪会場で応援をしているかのような臨場感。いや五輪会場どころか競技場の中に陣取って、柔道やレスリングの試合が数メートル先で行われているのを目撃したり、陸上トラックのすぐわきで100m走の決勝を間近で風を感じながら体感することができるようになるのではないでしょうか。
視聴スタイルが変わり五輪の価値が減っていく現状と、さらなる技術革新が起こり五輪の価値が倍増する未来。東京五輪が後者の勢いで盛り上がっていくことを、いち視聴者としては応援したいのですが、皆さんはどうですか?
(Photo by Philip Pryke)