はじめに
人がいないコンビニで買い物し、レストランで食事を楽しむ――。未来都市として描かれるような生活を手軽に楽しめる世界が、急速に実現に向かっています。
米国のアマゾン・ドット・コムは1月、レジなしの無人コンビニ「Amazon Go」1号店を米国・シアトルに開店しました。これに先駆けること半年前、中国インターネット大手アリババ(阿里巴巴)も2017年7月に無人スーパーを開店。さらに、顔認証レストラン、無人レストランと、最先端IT技術を投入した店舗を次々に展開しています。
アマゾンとしのぎを削る形で急成長を続けている、中国のインターネット企業大手。これまでの事業拡大の歴史を振り返りながら、今後の流れを展望したいと思います。
アリババが急成長した秘密
アリババは、検索大手バイドゥ(百度)、ソーシャルネットワーキングサービスのテンセント(騰訊)と共に「BAT」と呼ばれる中国三強IT企業の1つです。同社は2020年までに流通総額を1兆ドルまで伸ばし、米国、中国、欧州、日本に次ぐ世界第5位の経済プラットフォームを構築するという壮大なビジョンを掲げています。
アマゾンも米国で足場を固めて欧州や日本に進出後、アジアの拡大に着手しており、今後、アジアはネットサービスの激戦区となると予想されます。
アリババの創設者ジャック・マー氏は、中国はビジネス環境が悪かったからこそ、eコマースという新しいビジネスの考え方やテクノロジーを適用することで大きく発展できた、とその急成長について語っています。
アマゾンはeコマース参入後、その市場浸透率が50%を超えるまでに14年かかりましたが、アリババ傘下の「淘宝網(タオバオワン)」は9年、モバイル決済については、いまだ50%を超えない「アップルペイ」に対して、「アリペイ(支付宝)」は4年で超えました。
中国のネット市場の急拡大には、中国政府も一役買っています。2015年から「インターネットプラス」政策の下、モバイルインターネットやクラウド、ビッグデータ、IoT(モノのインターネット)をあらゆる産業と融合させ、eコマースや業界向けインターネット、インターネット金融などの健全な発展の促進に注力しています。
「中国製造2025」と統合的に進展させるために、中国全体で見た研究体制の確立や海外有力企業との提携、国際的な特許戦略や標準化戦略などを支援。新たなビジネスモデルの開発時には、規制や制度の見直しを迅速に行っています。
ネットと金融の融合
世界のインターネット利用者数は約36億人で、中国は7億人超と最大の利用者を抱えています(2016年6月時点)。この巨大市場での寡占的なサービスを提供することで、各社でデータ集積が進み、新たなサービスを展開できることが、中国企業の強みです。
中でも、モバイル決済市場の急成長は注目されるでしょう。2013年7月の規制緩和をきっかけに、モバイル決済市場は2014年の6兆元から2016年の36兆元に急拡大しました。2020年には114兆元(約1,960兆円)まで拡大すると予想されています。
主役はアリババとテンセントです。
モバイル決済アプリ市場の2強の1つであるアリババ傘下のアリペイは、金融商品販売の導入口として、マネーマーケット・ファンド(MMF)の余額宝(Yu’E Bao)を2013年6月から販売し始め、運用資産残高は2017年末時点で1.58兆元(約27兆円)と、中国最大の投資信託に成長しました。普通預金を上回る運用利回りや1元(約17円)から投資できる利便性が好まれています。
一方、テンセント傘下のテンペイ(財付通、ウィチャット・ペイメントを含む)は2015年、2016年の春節にウィチャット・ペイメントに「お年玉」送金機能を投入したことで、短期間に多くのユーザーを獲得し急成長しました。
顧客データの集積で新たなサービス展開へ
最近では、両社ともにリアル店舗への参入を活発化させています。中国の小売売上高のうちeコマース経由の割合は2014年の10%から2017年に約15%まで高まりましたが、依然、リアル店舗が消費市場の主流です。
ネット企業は、リアル店舗の決済から顧客データを集積し、新たな商品を展開していく見通しです。アマゾン対アリババによるアジア市場での陣取り合戦の行方を占ううえで、今後、顧客データの集積がどのようなサービス展開につながっていくか、注目されるでしょう。
(文:大和証券 投資情報部 シニアストラテジスト 山田雪乃)