はじめに
春の花といえば桜。桜の開花時期は十分に暖かくなっていますので、待ちわびた季節の訪れを肌と目で実感できる頃ですね。日本人にとって桜は別格扱いで愛されている花ですが、元は山に咲く素朴なヤマザクラで、花以外でも暮らしに寄り添っていた植物です。
太古から日本にあったヤマザクラ
桜より少し早く春を告げる花である梅や桃は、中国からもたらされた植物です。奈良時代頃から日本にあるので日本文化の中にも馴染んでいますが、桜は日本列島に日本人の先祖がやってくる前から野山で春を告げていたと考えられています。
縄文時代の遺跡からは既に縄文人が桜の木を利用していたと思われる痕跡が見つかるそうですよ。
桜を花として愛でる文化は宮廷の物。庶民に取っては暮らしを支えてくれる大切な木材
奈良時代が終わり、日本が中国から文化を取り入れた時代が終了すると、「国風文化」と呼ばれる日本独自の文化が発展します。その中で開花の後に一斉に花を散らす桜の儚い美しさが日本人の心をつかみ、「花といえば桜」と言われるようになります。
宮廷では桜は花を楽しむ物として愛され植樹も盛んになりますが、庶民に取って桜と言えば里山に咲くヤマザクラでした。
里山というのは、かつて燃料や生活資源として木材に頼っていた時代に人々が暮らしのために利用していた森や林を言います。桜の木は広葉樹であるため薪にすると熱持ちが良いので燃料としてもよく利用されていました。
木材としては軟らかめで腐食にも弱いとされますが、木肌の美しさが好まれ家の内装部分や食器などにも使われています。かつて印刷物が版画だったころ、繊細な細工が必要な浮世絵の版木にはヤマザクラが使われていたそうです。樹皮も「桜皮細工」として利用され伝統工芸になっています。
昔の人にとっては見て美しいだけでなく生活に役立ち暮らしを支えてくれる植物だったのですね。