はじめに
来週4月17~20日、安倍晋三首相は訪米し、フロリダ州パームビーチの大統領別荘でドナルド・トランプ大統領と会談します。これは、日米双方にとって重要な会談となります。
これまでの安倍-トランプ会談では、日米の友好関係を確認し、ゴルフや晩餐会で親密さが強調されてきました。しかし今回は、双方の主張をぶつけ合う場になるでしょう。
その背景にはどんな事情があり、会談のどのような点に注目する必要があるのでしょうか。整理して考えてみたいと思います。
トランプは何を求めてくるのか
今回の日米首脳会談において、日本は北朝鮮への圧力継続などで米国の協力を求める見込みです。一方、米国は貿易で日本の妥協を迫ってくる可能性があります。
具体的には、日米FTA(2国間の自由貿易協定)の交渉スタートを迫ってくると考えられます。トランプ大統領は、鉄・アルミへの関税上乗せで、カナダ、メキシコ、欧州、韓国を適用除外としたのに対し、中国と日本は対象に含めました。
なぜこうした事態になったのでしょうか。カナダとメキシコは北米FTAの見直し協議中であることから、適用除外となりました。韓国も、米韓FTA見直しで韓国が米国の要求を飲む交渉が進んでいました。欧州とも、さまざまな交渉が進行中です。
ところが、日本は米国抜きのTPP11(環太平洋パートナーシップ協定)の発効を推進中で、日米FTAの交渉スタートを受け入れていません。トランプ大統領はこれに不満を持ち、先月、安倍首相を名指しして、「各国首脳は、こんなに長い間、米国をだませたなんて信じられないとほくそ笑んでいるが、そんな日々はもう終わりだ」と発言しています。
中国までもが歩み寄り姿勢に
日本は、日米FTA交渉のスタートを受け入れる準備がありません。しかし、トランプ大統領はそこで進展がないと、日本にも厳しい姿勢をとらざるを得なくなります。
何しろトランプ氏は、2016年の大統領選挙期間中に、対米貿易黒字が大きい中国、日本、メキシコを敵視する発言を繰り返してきました。大統領になってからは、日本を批判する発言は長らく封印。日本と友好を強め、中国やメキシコに強硬姿勢をとってきました。
中国とは貿易戦争が泥沼化するリスクもありますが、中国側から「歩み寄り」とも取れる発言が出ています。
習近平国家主席は4月10日、海南省ボアオで開催されたアジア・フォーラムで演説しましたが、中国市場の開放推進を強調する内容でした。これで、米中貿易戦争が泥沼化することなく、「落としどころを探りながら収束していく」期待を生みました。
習主席の講演内容には、以下が含まれます。
(1)輸入を積極的に拡大。自動車の輸入関税などを大幅に下げる方針。
(2)知的財産権の保護を強化。知的財産権侵害の取り締まりを強化する。
(3)市場参入規制を大幅に緩和。自動車製造業、金融業(銀行・証券・保険)などへの外資による出資制限の緩和を早期に実現する。保険については、外資の業務範囲を広げる。
トランプ大統領の要求に応える内容を含んでおり、トランプ大統領はツイッターで習主席の講演に「とても感謝している」と書き込みました。
焦点の1つが自動車の「非関税障壁」
中国が本当に実効性のある市場開放を進めるか、予断を許しません。それでも、とりあえず対中国で米国の主張を通す可能性が出たことに、手応えを感じているはずです。トランプ大統領は、こうした成果を得て、日本にも圧力を強めてくると思われます。日米FTA交渉のスタートを強く主張するでしょう。
もし、日米FTAの交渉がスタートすれば、食料品の例外5品目(コメ、麦、砂糖、乳製品、牛肉・豚肉)のさらなる輸入自由化を迫ってくることは明らかです。米国製の自動車輸入の促進策も求めてくるでしょう。
ただし、自動車の輸入について、日本は関税をかけていませんが、米国は輸入に2.5%の関税をかけています。自動車の関税については、日本市場のほうがより開放されているわけです。
トランプ大統領が問題にしているのは「非関税障壁」です。安全基準の違いや軽自動車の優遇などが米国車輸入の障壁、と主張しています。
日米首脳会談で、どういった議論が出るのか。予想外の展開になることはないか。交渉の行方次第では、フツーの人の生活にも大きな影響が及ぶ可能性があります。その意味でも、今回の会談結果には注意が必要です。
(写真:ロイター/アフロ)