はじめに

愛煙家にとってますます住みにくい世界になりそうです。政府は2020年の東京オリンピックに向けて、受動喫煙対策を義務付ける法案を3月に閣議決定しています。外食産業では禁煙の動きが拡大しており、2年後には居酒屋ですらタバコが吸えないことになりそうです。

このような動きは、タバコメーカーの業績に逆風になるのでしょうか。「タバコビジネスのパラドックス」について解説してみたいと思います。


どんどん狭くなる愛煙家の肩身

受動喫煙対策を強化した健康増進法の改正案が、愛煙家に波紋を呼んでいます。年々締め付けが厳しくなる喫煙場所ですが、いよいよ居酒屋やバーといったオトナが酒を飲む場所ですら禁煙の動きが広がりそうなのです。

2020年の東京オリンピックに向けて、少なくとも欧州と比較して喫煙に関するルールが甘い日本に対しては「これではオリンピック開催国として失格だ」という声が高まっていました。

今回改正される予定の健康増進法の法案によれば、お酒を飲める普通の飲食店では完全分煙にするか、喫煙スペースを設けなければなりません。改正法が成立すると、チェーン店のうち非常に面積の狭いお店か、ないしは個人経営の居酒屋ぐらいしか、喫煙できる場所はなくなりそうなのです。

実際、この流れを受けて居酒屋チェーン各社が禁煙化の動きを加速しています。今のところ実験的に禁煙店を出して顧客の反応をうかがうチェーンも多いのですが、「串カツ田中」では競合他社に先駆けて6月からほぼ全店を全席禁煙にする方針を打ち出しました。

居酒屋やファミレスなど、この動きに同調するチェーンの数が広がれば、喫煙者にとってはますます住みづらい世の中になりそうです。

タバコ衰退論は顕在化しているのか

この流れを受けて、日本たばこ産業(JT)の業績を眺めると、頭打ちのように映ります。株価も下がっていますし、会社の動向を調べてみても、まるでタバコ産業から医薬や食品の会社に事業基盤を移そうとしているかのように見えてしまいます。

「タバコ規制の流れを考えたら、タバコ産業は衰退産業だ」――。そう考えるのも無理はないのですが、実はそうわかりやすい話ではないのです。

タバコ産業衰退論というのは1980年代から存在しました。しかし、その後のタバコメーカーの業績を見ると、各社はその後も成長しています。そしてタバコ業界には、どうやら成長の余地がまだまだたくさん存在しそうなのです。

値上げしても売上高は減らない

タバコメーカーの事業拡大余地は大きく分けて3つあります。

1つ目に、価格弾力性の不思議があります。普通の食品の場合、大幅な値上げをすれば、顧客が逃げて売り上げが減ってしまうもの。しかし不思議なことに、タバコはその例外なのです。

値上げをしても、値上げ幅ほどは販売数量は減らない。むしろ、値上げをすると値上げ前よりも売上高は増えてしまうのです。

このメカニズムを利用して、財務省は大幅なタバコ増税を仕掛けています。税率を上げると、喫煙をやめる人が増える。それでもやめずにタバコを吸い続ける人もたくさんいる。結果、喫煙者人口を減らしながら増税効果が得られるというわけなのです。

欧米ではタバコ1箱が1,000円ほどもする国すらあるのですが、それでも喫煙者はなくなりません。この特性から、タバコ規制の強化がすんなりとタバコ会社の衰退論にはつながらない、というのが1つ目のポイントです。

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