はじめに

商品を所有する満足感ではなく、その商品を通じて得られる体験を購入する「コト消費」。ここ数年で小売りの現場などで頻繁に使われるようになったので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

ところが、最近の消費傾向を分析して、この夏のトレンドを予測してみると、コト消費の一歩先を行く、最新の消費トレンドが浮かび上がってきました。新たな消費行動とは一体どんなものなのでしょうか。


ファッションは「90年代」がアツい

インターネット通販大手の楽天が約4万5,000店舗、約2億5,000万商品の購買データと外部要因を分析して予測した「楽天市場 夏の消費トレンド2018」。同社は6月5日、衣食住など5つの切り口から、この夏の消費トレンドを発表しました。

衣のキーワードは「消費者主導」。SNSの普及によって、従来のようなメディアではなく、消費者が発信源になったトレンドが広がっています。

たとえば、前年比で25.1%増の売上高を記録しているリーボックのスニーカー。1990年代に流行したアイテムですが、当時20代だった人が現在では40代となり、子供とおそろいで撮った写真をSNSにアップするなど、「90年代グッズ」が注目されているといいます。


「衣」では、クリアバッグ(左)やリーボックのスニーカーなど、90年代グッズが人気

食では「上陸グルメ・お家芸グルメ」がキーワード。食のボーダーレス化が起きていて、韓国のかき氷など毎年海外から新しいグルメが上陸する一方、カナダのラーメン店が日本に上陸するなど、海外で流行った和食を逆輸入する動きも出てきています。

こうした中で、米国で流行したロールアイスを作る機械(前年比910%増)や、日本固有のお家芸的食文化の代表として高級お茶漬け(同96.3%増)が売れているそうです。

レジャーは屋外・屋内がボーダーレスに

続いて、住のキーワードは「ライフシフト消費」。働き方改革などの影響で家で過ごす時間が増加し、睡眠時間を充実させるための商品(高級寝具など)や、今まで時間がかかっていたものが簡単にできてしまうキッチン家電(低温調理機など)、夜をゆっくり過ごすための機器(ワイヤレススピーカーなど)が売れているといいます。

遊(レジャー)では「外中(そとなか)ボーダーレス」がキーワードに。気温や雨を気にせず、ストレスフリーにレジャーを楽しむため、外と中のレジャーの境界をなくすニーズが高まっているそうです。

たとえば、流しそうめん器は売上高が前年比36.1%増と伸びており、新商品もたくさん出ているとのこと。スポーツ観戦もパブリックビューイングから、家の中でユニフォームを着て、仲間内で食事を食べながら応援するプライベートビューイングにシフト。関連するビールサーバーやユニフォームの売り上げが伸びているといいます。

驚のジャンルでは「逆転消費」に注目。チゲ鍋(同111.8増)やおでん(同12.1%増)などのほかにも、夏のイルミネーショングッズも同41.5%と需要が拡大しています。

衣食で顕著な「ストーリー消費」

このように5つのジャンルでそれぞれにキーワードをつけて発表しましたが、「これら5つのキーワードには共通する消費傾向の変化がある」と、楽天市場トレンドハンターの清水淳さんは指摘します。

それが「ストーリー消費」。つまり、商品を買って、どうやって生かすか、モノを使っていく背景・過程を楽しむ傾向が強まっているというのです。「モノを使って何かに生かして、人に見てもらったり、自分で満足する。コトではなく、ストーリーや背景といった“コトの次の段階”を楽しむ消費が広がっています」(清水さん)。

こうした傾向が顕著に見られるのが「衣」と「食」だといいます。

衣ではクリアバッグが前年比111.7%増と売上高が急伸していますが、クリアバッグの中にブランド物のバッグを入れて、アレンジして自分なりに変えるのが流行しているからだそうです。「“透明”は消費者がストーリーを外に出しやすいアイテムです」(同)。

食でも、バブルワッフル(同25.2%増)やスモア・マシュマロ(同13.1%増)など、定番の商品を少し変化させたスイーツが流行しています。「自分はこうやってクリエイティブ性を発揮するんだよ、と自らのストーリーをSNSなどでアピールするニーズがあるようです」(同)。

背景に「反SNS映え」の流れ

このようにストーリー消費が台頭してきた背景には、「反SNS映え」があるといいます。昨年は「インスタ映え」が流行語に選ばれましたが、早くも一部ではSNSで見栄えするためだけの消費に疲れが出てきているようです。

そこで、見た目だけではなく「本質的な部分を求める動き」(清水さん)が顕在化し始め、ストーリー消費が台頭してきたというわけです。「満足するモノにはお金を使う」(同)という最近の購買行動も、何らかの影響を与えていそうです。

モノ消費からコト消費を経て、ストーリー消費へと変化してきた日本人の消費行動。消費を提供する側の企業にとっては企画の作り込みが求められる一方、消費する側にとってはその目利き力が試される時代がやって来ることになりそうです。

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