はじめに

6月は3月期決算企業の株主総会が開催される月です。以前に比べれば開催日は分散傾向にあるとはいえ、それでも最終週は多数の会社の総会が集中しています。

その中で世間の耳目を集めているのが、6月28日に株主総会を開催する、民放大手のTBSホールディングスです。実は同社、英国籍のファンド、アセット・バリュー・インベスターズ(AVI)から株主提案を受けているのです。

TBSは一体どんな要求を突き付けられているのでしょうか。そして、なぜ今回のような事態が起きたのでしょうか。


ファンド側は何を求めているのか

AVIはTBSの発行済み株式総数の2%を保有していて、「継続して半年以上、1%以上を保有する株主」という、株主提案ができる資格要件を満たしています。提案内容は「配当」。しかも、「TBSの保有する東京エレクトロンの株で配当をせよ」という珍しい提案です。

東京エレクトロンは世界4位の半導体製造装置メーカーです。TBSは東京エレクトロンの株式を772万株(発行済み株式の4.6%)保有しています。このうち約300万株をTBSの株主に現物配当せよ、と要求しているのです。

TBSは総資産の半分以上にあたる4,366億円が政策保有株式で、不動産が1,394億円、現預金が810億円あり、これだけで総資産の8割を占めています。

本業の儲けを示す営業利益188億円のうち、不動産事業で稼いでいる利益が約80億円。放送事業で稼いでいる営業利益は33億円にすぎません。

これに対し、本業以外の儲けを示す営業外収益に計上されている「配当収入」は80億円。不動産事業と同額、かつ放送事業の2.4倍もの配当収入があるわけです。

AVIには上智大学で教鞭を執っているスティーブン・ギブンズ教授がアドバイザーとして付いていて、5月31日に会見を開いたギブンズ教授は「投資ファンドに近いポートフォリオ」だと言って批判。「放送事業は副業」とまで言い切っています。

だから、東京エレクトロンの株を株主に配当し、放送事業者らしいポートフォリオになれ、と言っているのです。

TBSが東京エレクの大株主になった事情

ところで、TBSがなぜ、半導体製造装置という畑違いの会社の株を持っているのでしょうか。

東京エレクトロンは1963年11月設立で、大手商社の日商(現・双日)の営業マン2人が無一文で独立して立ち上げた会社です。その際、出資者として頼ったのがTBSの技術局長。2人のうちの1人が、TBSに放送機材を納入する営業担当だったのです。

時代が大らかだったからともいえるのですが、技術局長はTBS上層部に働きかけてくれて、2人は首尾良くTBSから500万円の出資を引き出すことに成功。TBS出身でもない2人が、TBS全額出資の子会社として、東京エレクトロンを立ち上げたのです。

その東京エレクトロンは、今や世界4位の半導体製造装置メーカーです。2018年3月期にTBSが東京エレクトロンから得た配当収入は、保有株数から計算するとざっと38億円です。TBSの配当収入総額は80億円でしたから、東京エレクトロン1銘柄で配当収入の半分弱を占めていることになります。

東京エレクトロンとTBSの関係は特異なものですが、他のテレビ局も多額の政策保有株を持っています(下表)。TBSは確かに突出していますが、他局もかなりの額の株を持っています。

番組スポンサーとの間で持ち合いをしているのでしょうが、これだけ持ち合いが批判されても手放さないのは、配当収入がバカにならない額だからでしょう。

AVIの株主提案は魅力的?

AVIの主張は確かに正論ですが、株主としては素直に賛成できるかどうか微妙です。というのも、配当はEPS(1株当たり当期純利益)を基準に決定されます。業績連動の会社はもちろん、安定配当方針の会社でも一応、配当性向(=1株当たり配当÷EPS)は意識します。

TBSが政策保有株式を手放したところで、すぐに営業利益を稼ぐ力がアップするわけではありません。東京エレクトロン株を手放した後のTBSのEPSは当然下がりますから、常識的に考えれば、配当に回せる余力も減り、株価も下がります。

一方で、TBSの株主は東京エレクトロンの株を直接保有できるわけですから、東京エレクトロン株式の価値とTBS株式の価値の合計は、従前のTBS株式の価値と理論上、同じではあります。つまり、損にも得にもならないのです。

一般的に現預金資産はわずかな利息しか生みませんから、収益の底上げ効果は限定的です。手放してもEPSへの影響はほとんどありません。だからこそ、貯め込む一方で使わないのなら株主に分配せよ、という提案はまだ納得性が高いのです。

ただし、東京エレクトロンの配当性向は5割と高水準です。だから、手放した時のTBSのEPSへの影響も甚大になります。さて、あなたがTBSの株主だったら、AVIの提案に賛成しますか、それとも反対しますか。

(写真:ロイター/アフロ)

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