はじめに
総務省が公表している「家計調査」は、マクロ的経済指標の視点からみるとGDP(国内総生産)の個人消費を算出する時の需要側の基礎統計ですが、ミクロ的視点からみると興味深いデータの宝庫です。
その内容をつぶさに見てみると、お酒の好みは地域によって違うようです。また消費金額・消費量にも、お国柄が垣間見られます。お酒に映る地域性とは、どんなものなのでしょうか。
「家飲み」トップ5は米どころ
家計調査では年に一度、3月頃に、2人以上世帯のデータを使用して作成した、直近3年間の平均でみた「品目別都道府県庁市及び政令指定都市ランキング」が発表されます。今年発表分では、2010年4月1日時点で政令指定都市であった川崎市、相模原市、浜松市、堺市、北九州市の5市が対象になっています。全52市についてのランキングがわかります。
酒類全体の購入金額、いわゆる「家飲み」が多い上位5市は、順に新潟市、青森市、秋田市、山形市、盛岡市。雪国、米どころの印象が強い地域です。
飲まれるお酒の種類は、地域によって特徴があります。やはり、地元で生産されているお酒の種類がよく購入されています。
越後や東北地方は「清酒」。南九州の宮崎市、鹿児島市は「焼酎」です。「ビール」は京都市、札幌市の順に購入されています。「ウイスキー」は山形市、青森市の順、「ワイン」は東京都区部、横浜市で多く飲まれています。
薩摩隼人は意外にもゲコ?
酒類全体の消費が2番目に多い青森市ですが、ここではいろいろな種類のお酒の購入金額が上位にきています。「焼酎」が3位、「ビール」が金額で8位、数量で4位、「ウイスキー」が2位、「発泡酒・ビール酒・アルコール飲料」で5位、「チューハイ・カクテル」は1位です。
「焼酎」で第2位の鹿児島市は、酒を多く飲みそうなイメージですが、酒類全体の購入金額では52市中48位と低い順位になります。「清酒」は最下位の那覇市を上回るもののブービー賞の51位、「ビール」は47位、「ウイスキー」は金額で最下位、数量で50位、「ワイン」は金額39位、数量47位、「チューハイ・カクテル」は最下位です。
NHK大河ドラマの『西郷どん』でも主役の西郷吉之助(隆盛)が見かけによらず酒は飲めないというシーンが出てきましたが、鹿児島市もそんな印象です。
宮崎で度数低めの焼酎が売れるワケ
「焼酎」の購入金額第1位は宮崎市で、全国平均の2.2倍です。ところで宮崎の焼酎は、県外に出すものは通常の焼酎と同じアルコール度数25度ですが、県内の焼酎はアルコール度数20度という銘柄が多いという不思議な状況があります。
宮崎では、戦後の混乱期に国から酒造の許可を受けていない業者が作った粗悪な密造の焼酎が多量に出回ったことがあります。戦後しばらく、焼酎はアルコール度数25度以上のものしか許可されなかったのですが、密造焼酎対策として正規の業者も25度以下の焼酎を作ることができるよう、酒税が改正されたということです。
アルコール度数が低いのでロックで飲むことを好む方には20度の焼酎が支持されることや、宮崎の人はなめらかな焼酎が好きだからという理由もあり、現在でも20度のものが宮崎と大分の一部では販売されているようです。
外飲み首位の高知が生んだ特殊酒器
外食の中の「飲酒代」がダントツに多いのは高知市で40,320円、全国平均の2.2倍です。「家飲み」の酒類購入額との合計の第1位も同市です。
高知市の人のお酒の強さを示すお座敷遊びの道具に「可杯(べく杯)」があります。「可」の字は漢文では「可何々(何々すべし)」と使い、下にはつけない字であるため、下に置けない杯を可杯と呼ぶようになったということです。
可杯は「おかめ」「ひょっとこ」「天狗」の杯と、飲む人を決める「こま」がセットです。
「おかめ」は一番小さい杯で、この杯は下に置くことができます。「ひょっとこ」の杯は、おかめより大きく口のところに穴が開いているため、指で穴をふさがないとお酒が漏れてしまい、飲み干さないと下に置けません。
「天狗」の杯は、大きな鼻の部分にまでお酒が入るので、3つの杯の中では一番お酒が入ります。長い鼻が邪魔をして、飲み干すまで下には置けません。
飲酒代と自宅で飲む酒類購入額との合計したお酒への支出合計が少ない市は、49位の名古屋市、50位の岐阜市、51位の浜松市、52位の津市で、東海圏の市が多いようです。外食の喫茶代の1位と2位は岐阜市と名古屋市なので、この両市の人は相対的にお酒よりもコーヒーを飲むことが多いようです。