はじめに
1年を通じても最も重要な週と位置付けられた6月11~15日の週を、おおむね想定通りの結果で乗り切りました。
グローバルの金融市場を覆う不透明感は一部で後退したと判断されましたが、すっきりと解決しなかったのが米中の通商問題です。依然として先行きに警戒感がくすぶっています。
予断を許さぬ米中通商問題
米国が中国に対して輸入額500億ドル相当の品目に追加関税を課すことを決めると、すかさず中国側も報復措置を表明。さらに、米国は2,000億ドル相当の中国からの輸入品に追加関税を課すことをちらつかせ、事態は泥沼化の様相を呈しています。
こうした米中の貿易リスクが、引き続き、投資家心理の重しとなる可能性は否定できません。とはいえ、実際に第一弾の関税引き上げが発動されるのは7月6日からで、まだ時間的な猶予が存在することも事実です。
水面下で行われてきた2国間の交渉が第2ラウンドに突入するイメージで、今回の決定が不可逆的なものになるとは限らないでしょう。双方に不利益をもたらす貿易障壁が深刻化していくかどうかには懐疑的な面が強く、最終的な軟着陸を期待しながら、しばらくは様子見姿勢が正当化されそうです。
米国株は「適温状態」が継続か
米中貿易摩擦以外のイベントでは、米朝会談や米FOMC(連邦公開市場委員会)、ECB(欧州中央銀行)理事会などに一定の成果や前進があったと評価できます。投資家にリスク選好を促す1つのきっかけになり得ると考えられそうです。
起点となる米国には今のところ、ファンダメンタルズの変調は確認されず、緩やかな利上げの下で、成長が続く見通しです。目先の株式市場では、米国株を筆頭に先進国優位の展開が実現する可能性があるといえるでしょう。
6月に入っても、底堅い値動きを続けてきた米国株は、NYダウ平均株価が再び2万5,000ドル台を回復する場面もありました。ITセクターを中心に好業績への期待が大きいことに加え、株価に特段の割高感が生じていないことが、買いの安心感を強めたと解釈されます。また、6月の米長期金利が2.9%台(もしくはそれを下回る水準)での推移に終始したことも追い風となったもようです。
2018年の米国株相場を占ううえでは、米中通商問題もさることながら、金利動向が重要なカギを握ることは間違いないでしょう。6月のFOMCでは政策金利が0.25%ポイント引き上げられるとともに、2018年の利上げ見通しが年3回から年4回に上方修正されました。それは当局サイドの物価上昇に対する自信から、本格的な金融引き締めを予感させる内容でした。
しかし、その一方で長期の金利見通しが維持されるなど、あくまでも緩やかな利上げが志向される点で、当局のスタンスに変化がないことも確認できました。やはり現時点では、経済や株価に急ブレーキとなるほどの金利上昇に対しては、当局が慎重である様子が透けて見えます。
米長期金利はいずれまた、3%台に乗せてくると予想されますが、3%を大きく超えた水準とならない限りは、株価の下押し圧力も限定的なものにとどまるでしょう。ITセクターの好業績見通しを牽引役とした株価の好調は、少なくとも次の4~6月期の決算発表まで続く可能性があります。
米国は貿易摩擦の当事者ではあるものの、「適温」状態にある株価はいずれ浮上する機会が訪れると考えられます。
資産買取継続で欧州株は?
金融緩和の出口を探ってきたECBは、遂に政策上の1つの転換点を迎えることになりました。
6月のECB理事会では、4年近くにわたって実施されてきた資産買取が、2018年末で終了することが決定しました。もともと2018年9月まで月間300億ユーロのペースで買取が行われるスキームとなっていましたが、9月で完全に打ち切りではなく、月間150億ユーロに規模を縮小したうえで、12月までの延長を認めることで、激変緩和を狙った点が特徴です。
注目の利上げのタイミングについては、少なくとも2019年夏まで現行の金利水準が維持されることとなり、市場で安心感が広がっています。金融引き締めへの一歩を踏み出すECBの決定は、本来なら「タカ派的」と受け止められてもおかしくはありませんが、資産買取を延長し、利上げに十分な猶予期間を設けたことで「ハト派的」な印象を与えたと評価できます。
いずれ金融政策が引き締めに転じることは免れないでしょうが、少なくとも資産買取が継続している間は、株価が底堅い動きを見せる可能性もあります。そのことは、先に同じ道をたどってきた米国の例が示唆しているといえるでしょう。
足元で、欧州企業の業績修正動向がプラスに転換してきているのは、通貨安による外需の収支改善を楽観したことが背景にあると考えられます。金融引き締めで半歩先を行く英国でも利上げが先送りされ、同様の展開となっているのは興味深い点です。当面の欧州株に対しては、やや前向きな取り組みが奏功する可能性があります。
日本株に出番はあるか
外需に支えられる日本企業の業績は、必然的に為替の影響を強く受け、為替は投資家のリスク選好に影響を受けます。リスク回避傾向が強まると円が買われ、円高が日本株の重しとなります。
米中通商リスクは未だ払拭されてはいないものの、米朝問題の前進や米欧金融政策の不透明感の後退は、投資家心理に好影響を与えるものと予想されます。その結果として、今後は為替が大きく円安に振れる展開を想定しないまでも、少なくとも極端な円高進行は避けられる見通しです。
大和証券が予想する主要企業の2018年度経常増益率は、1ドル=110円の前提のもとで8%台ですが、もう一段の円安進行で、2ケタ経常増益も十分に視野に入ってきます。現状では底堅い業績が見込まれる中にあっても、日本株への評価は高まりを見せておらず、米欧と比較した相対的な割安感は強まるばかりです。
世界が注目する重要イベントを無難に乗り切ったことへの評価として、今後のリスク選好ムードの高まりを予想すれば、日本株の出遅れ・割安修正が、株価を押し上げると期待されます。米中貿易摩擦の行方は予断を許さないものがありますが、それが解消に向けて動き出せば、市場の展望は一気に開ける可能性があります。
リスクに備える行動も大事ですが、相場反転時に適切な対応を取れるかどうかも重要です。先進国市場が相対的に恵まれた投資環境に置かれていることを踏まえ、チャンスに乗り遅れないための「相場への感度」を養うことが求められます。
(文:大和証券 投資情報部 チーフ・グローバル・ストラテジスト 壁谷洋和)