はじめに

1ヵ月ほど前、「『放送は副業』呼ばわり、TBSが直面する株主総会の難題」という記事で、TBSホールディングスの株式2%を保有する英国籍のファンド、アセット・バリュー・インベスターズ(AVI)から、TBSが株主提案を受けていることを取り上げました。

その株主総会が6月28日に開催されました。結果はどうだったかというと、賛成票はわずか11%で、AVIの提案はあっさりと否決されました。

株主総会までの間に、両者でどのような攻防が繰り広げられたのか。そして今回の一件は、今後のTBSの経営にどのような影響を及ぼしそうなのか、考えてみたいと思います。


外国人株主からの賛同も広がらず

今回の総会での議決権行使比率は91.9%。総議決権数が174万6,253個ですから、行使された議決権数は160万5,644個。AVIの提案に賛成した議決権数は18万0,828個です。

AVIの正確な保有議決権個数は不明ですが、保有比率は約1.9%なので総議決権数にかけて3万3,178個とします。すると、AVI以外で賛成した議決権個数はおおむね14万7,650個で、発行済み株式総数に対する持ち株比率では8.45%という計算になります。

TBSは電波法によって、外国人株主比率は20%以下に規制されています。2018年3月末時点の外国人株主比率は14.84%ですので、外国人株主の中にもAVI案に賛成しなかった株主が相当数いたということになります。

AVIの提案の狙いは?

そもそもAVIの提案内容がどのようなものだったかというと、「TBSが保有する東京エレクトロン株式で配当せよ」という珍しいものでした。

TBSの本業の儲けである営業利益は188億円ですが、そのうち80億円を不動産事業で稼いでおり、放送事業の利益は33億円に過ぎません。さらに、本業以外の儲けである営業外収益88億円の大半が配当収入で、そのうち38億円が東京エレクトロン1社からの配当という状況です(いずれも2018年3月期)。

「これではまるで放送事業は副業だ。東京エレクトロンの株を手放して、放送事業者らしいポートフォリオになりなさい」というのがAVI側の主張でした。しかも「東京エレクトロン株式を売って現金にし、それを配当に回しなさい」というのではなく、「株のまま配当せよ」です。

AVIの目的は東京エレクトロン株を手放させることにあるので、現金での配当を要求すると、東京エレクトロンの株の売却以外の手段で現金を作って配当されてしまうおそれがあったからです。

ISSの推奨付きでも賛成票は伸びず

今回のAVIの提案には、世界最大の議決権行使助言会社・ISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)が推奨表明していたそうです。

同社は今年2月に公表した議決権行使助言基準で、株主としての投資効率を示す指標であるROE(自己資本利益率)が5%以上なら反対推奨しないとしています。TBSの場合は直近の2018年3月期が3.2%で、毎年おおむねこの水準です。ISSはこの基準に従って反対推奨したということでしょう。

また、TBSの企業価値はマイナスです。ここでいう企業価値とは、時価総額からネットキャッシュ(現預金から有利子負債を差し引いたもの)と有価証券を差し引いたものを指します。確かに、3月末時点の時価総額は3,943億円、ネットキャッシュが606億円、有価証券が4,367億円ですから、金融資産が時価総額を上回っています。

機関投資家、中でも外国人投資家へのISSの影響力は甚大です。ファンドの多くは自らに投資している投資家への説明責任を負っていますので、ISSの推奨と異なる議決権行使を行う際には、自らの投資家に説明できるロジックを構築します。

それでも賛成票は伸びませんでした。何しろ外国人でも賛成しなかった株主が相当数いたくらいですから、持ち合いに守られていることだけが理由ではないでしょう。やはり、東京エレクトロンの株を手放してしまうと、来期以降の利益が大幅に減るからではないでしょうか。

高い議決権行使率が意味するもの

注目すべきは、今回の総会での議決権行使比率の高さです。7割台後半から8割台というのが一般的ですが、9割を超えています。この高い行使率は何を意味するのでしょうか。

議決権ベースでの個人の保有割合は4.38%に過ぎず、国内金融機関が27.61%、国内法人が51.66%を占めます。考えられるのは、TBS自身が株主を回って委任状の獲得を熱心にやった結果という可能性です。

経営陣の緊張感を損なわせる持ち合いの解消は、コーポレートガバナンスコードにも謳われ、解消しないなら説明をしなければならないとされているわけですから、AVIの主張は正論です。

とはいえ、東京エレクトロンの株を手放したら収益水準は大幅に下がります。安定的に入ってくる東京エレクトロンからの潤沢な配当収入を原資に、本業への成長投資を行ってほしいというのが、長期保有型の株主の本音でしょう。

となれば、いつまでも今のままで良いとは思っていないはず。TBSとしては、株主を説得するにはそれなりの説明が必要になります。今回、AVIの提案は低い支持率に終わりましたが、効果は目に見えない形ながら、じわりと浸透していくのではないでしょうか。

この記事の感想を教えてください。