はじめに
「サマーラリー」という用語をご存知でしょうか。7月から9月までの夏場、米国の株価が上昇しやすいことを指した言葉です。
米中の通商問題は予断を許さないものの、日米の株式市場は決算発表へ注目が集まっています。今年の夏は用語通り、株価上昇となるのでしょうか。
米国、欧州、新興国、そして日本と、順を追って確認していきましょう。
好業績の米国株はさらなる上昇へ
7月に入り米国株は堅調に推移しています。7月中旬には、NYダウが2万5,000ドルを回復し、ハイテク株が主導するかたちの相場上昇により、ほぼ同じタイミングでナスダック指数は過去最高値を更新しました。
米中通商問題が小休止となるなか、想定される展開はもう一段の株価上昇です。7月10日、米国は新たに中国に対して、2,000億ドル規模の輸入品への追加関税を表明しました。6,031品目にわたる関税リストを発表し、パブリックコメントを募って意見調整した後で、8月末にも対象品目が決定される見通しです。
このスケジュールを、第1弾の500億ドルの時と比較してみましょう。7月10日は関税リストの具体案を提示した4月3日、8月末は最終リストを提示した6月15日に対応します。4月3日~6月15日の期間について株価推移を振り返ると、米国株が堅調に推移した様子が確認できます。
この間は、1~3月期の決算発表が行われた時期とオーバーラップします。市場参加者は貿易摩擦の問題をひとまず脇に追いやり、好調な企業決算を好感したと考えられます。今回も同様の展開を期待できるなら、決算次第で相場はさらに強含む可能性もありそうです。
S&P500ベースで見た4~6月期の増益率(前年同期比)は、最終的に20%台半ばくらいに到達する見込みです。それは追加的な株価上昇を正当化するのに十分な材料となるでしょう。6月のFOMC以降は、長期金利が安定を保っている点もポジティブに受け止められます。
今のところ景気や物価に極端な過熱感はなく、ここから先の金利上昇もある程度、限定的となりそうです。夏場の米国株は好業績のハイテク株を中心に、再浮揚のシナリオがメインに据えられます。
欧州株はユーロ安とポンド安が追い風に?
欧州では米国による自動車・同部品への輸入制限の検討、英国ではEU離脱担当相や外相の辞任など、市場の不安定化材料が出ているものの、株価は概ね堅調さを保っています。共通するのは通貨安による業績改善期待と、それに伴う資金流入余地の拡大です。
欧州ではECBが年内での資産買い取りの打ち切りを表明していますが、それと同時に少なくとも来夏までは利上げを見送る方針を示しています。英国でも足元で物価が伸び悩んでいるために、追加利上げのタイミングが定まらないのが実情です。
その結果、ユーロも英ポンドも対米ドルで年初来の安値圏で推移しています。そして、このことが欧州企業の業績見通しを少なからず明るくしている面があります。金融引き締めのない中で、堅調な業績が続く環境は、まさに適温状態といえるでしょう。
欧州・英国株はいくつかの不安要素を抱えていますが、それがかえって追い風となり、当面の株価をサポートすることになるかもしれません。
エマージング株の復活は中国株次第
堅調な先進国株とは対照的に、エマージング株の戻りは鈍いものとなっています。米国との貿易問題に晒される中国株の反発力が弱く、それがエマージング株全体のセンチメントの弱さにつながっていると考えられます。
直近で発表された4~6月期の中国の実質GDP成長率は前年同期比+6.7%となりました。3四半期続いた6.8%成長から減速・失速したという悲観的な見方が存在する一方で、政府目標の6.5%成長を上回り、1~3月期まで11四半期続いた6.7~6.9%成長のレンジを維持したとの楽観的な見方もあります。
中国景気に対する評価は強弱感が対立した状態にあると言えますが、株価の方は軟調な推移が優勢となっています。上海A株指数の予想PERは10倍台まで低下し、17年平均の13倍を大きく下回ります(09年以降の長期の平均がおよそ12倍)。
米中通商問題の影響は予断を許さないものの、現段階で一方的に予想PERを切り下げる展開には、やや違和感を覚えます。通商問題の着地を注意深く見守りつつも、短期的には中国株の多少の戻りを期待してもよいのかもしれません。
周辺のエマージング株がそれに歩調を合わせれば、先進国株に大きく見劣りするような相場展開は予想しにくいところです。短期的にはやや強めのスタンスで臨むのが適切と考えます。
日経平均株価は2万3,000円台の定着を目指す
米中通商問題が激化するなか、当事国でないにもかかわらず、それなりに大きなダメージを受けたのが日本株です。世界の景気敏感株としての位置付けから、米中をはじめとする世界の景気に対する減速懸念を、日本株がいち早く読み取った結果と理解されます。
しかし、米中の攻防がいったんの小休止に入る局面で、日本株だけが難局を強いられる可能性は限定的と見られます。ひとまずは対米ドルで進む円安を支えに、株安からの揺り戻しが期待できると見ています。
4~6月期の決算では、米中リスクをどの程度、反映した結果となっているかが注目されますが、一方で、1~3月期よりも明らかに好転した為替は、今後の業績見通しの改善を促すことになるでしょう。主要企業の業績についていえば、1ドル=115円への円安進行によって、2ケタの経常増益が視野に入ってきます。
米国企業の大幅増益には及ばないものの、2ケタ増益という好業績の目安をクリアすることで、今後の株価上昇に弾みがつく可能性もあります。今夏の日経平均株価のターゲットとしては、2万3,000円台の定着を掲げることができます。
(文:大和証券 投資情報部 チーフ・グローバル・ストラテジスト 壁谷洋和)