はじめに
先週で7月決算企業の決算発表がおおむね出そろいました。その中に面白い会社を見つけました。
印刷会社とユーザーを仲立ちするプラットフォームの運営会社・ラクスルです。今年5月31日に東証マザーズに上場したばかりの会社で、社名の由来は「楽に刷る」と中小企業のビジネスを「楽にする」だとか。
2009年の創業から10年目での上場となったわけですが、実はこの会社、上場前から将来有望なベンチャーとして数々の受賞歴を持っています。代表の松本恭攝(やすかね)氏は、昨年11月にフォーブスジャパンの日本の起業家ランキング2018で1位を獲得しています。
構造不況業種の代表格といってよい印刷業界にあって、なぜこれほどの高い評価を受けているのでしょうか。そのビジネスモデルをひも解いてみましょう。
料金を格段に安くできるワケ
同社の主力サービスは、社名と同じ「ラクスル」です。利用者がチラシ、ポスター、名刺、パンフレットなど、印刷したいものの原稿を作成し、材質やサイズ、数量などを指定してインターネットで申し込むと、この会社が提携している全国の印刷会社の中から、印刷機が空いている会社を探してマッチングしてくれます。
ごく少量から受けてくれて、しかも値段が安いのです。たとえば名刺。原稿を自分で作成するとはいっても、200以上のパターンの無料のテンプレートが用意されていて、必要な事項を入力して申し込むだけです。
出荷までの日数に余裕があればあるほど料金が安くなる料金体系になっています。受付日から1営業日目の出荷だと、カラー両面で100枚1,400円。これが7営業日目の出荷だと、463円。送料がメール便だと190円、宅配便だと470円が別途かかりますが、街中の名刺屋さんだと両面になった途端に料金は倍にハネ上がりますから、格段の安さです。
現状では、個人のユーザーが6割を占めていますが、照準は法人に定めていて、中小企業を中心に法人顧客層を拡大していく意向のようです。
法人向けをどう拡大していくのか
飲食店や美容院、学習塾、歯科医院、駅前不動産屋などは、狭い営業エリア内にチラシを配って集客を図ります。ですので、印刷代を安く上げたいという需要とともに、配布もしてほしいという需要があります。
このため、集客支援サービスという形で、ポスティングや新聞折込、ダイレクトメールのほか、駅に貼るポスターなどは、印刷とともに掲出交渉まで請け負う対応しています。
もう1つの主力商品が「ハコベル」です。名前から連想できる通り、こちらは全国の運送会社と提携し、運んでほしい荷物をネットで申し込み、この会社が空いている車を探してマッチングするサービスです。
印刷業界も運送業界も、建設業と同様、多重構造になっています。顧客から直接受注するのは営業機能を持った大企業ですが、顧客から直接受注した業者と、実際に刷ったり運んだりする業者の間には何重にも業者が関与し、その都度、手数料を抜いていくわけです。
だったら、実際に刷ったり運んだりしている末端の業者と直接取引できれば安くできる。そう考えたわけです。