はじめに
日経平均株価が膠着状態を抜け出し、一時2万4,000円超の水準まで上昇しました。そこで今回は、これから先も今以上の水準に上昇するかについて、私の見解を述べさせていただきます。
9月以来の上昇はどう説明されてきたか
私は今年7月から本連載を開始したのですが、その第1回においてストラテジストとして最も皆さんにお伝えしたいことを書きました。記事のタイトルは「日本株市場への強気シナリオを維持する“3つの根拠”」。日本株市場に強気である、という趣旨でした。
簡単に内容を確認するため、小見出しだけを抜粋すると、(1) 米金利上昇が映す適温経済・相場の終焉、(2)適温経済・相場終焉後の投資環境は?、(3)株価の上値は想定以上に大きなものになる可能性、という順で強気の見方を説明しました。
現在の日経平均は膠着状態を抜け出して、今年1月以来となる2万4,000円台にまで上昇してきました。9月下旬の大きなイベントであった米連邦公開市場委員会(FOMC)や日米首脳会談の前から、日経平均はすでに上昇し始めていました。
この上昇の理由として、大きなイベントを前にしたショート筋(先物などを使って日経平均が下落することで利益が出る「売りポジション」を取っていた投資家)の買い戻し、と説明されることがあったと思われます。また、別の理由として、9月末の中間配当を目的とする買いである、と説明されることもありました。
弱気な見方は後退している
これらはいずれも、わが国の株式市場に対して弱気な予想を持つ方の見解と思われます。つまり、10月に入って9月下旬の特殊要因が剥落すれば、市場は下落に転じ、2万2,500円近辺での膠着相場への回帰か、あるいはそれ以下の水準への下落を暗に示唆する、というものです。
しかし現実には、10月になっても日経平均は底堅い動きを続けています。「株価の上昇が9月下旬の特殊要因である」という見方は後退しているのではないかと考えます。
それでは、日経平均はこの後も上昇するのでしょうか。
日米貿易問題は当面、悪材料にならない
9月下旬の重大イベントを振り返ると、率直に言ってFOMCの決定内容は特段の材料にはならないと思われます。一方で、日米首脳会談の内容については、日本株の大きなプラス材料であると考えています。
米国にとって2国間の交渉に持ち込めたことは大きなメリットです。多国間の交渉であれば米国の立場は弱まりますが、1対1の交渉では覇権国としての米国のパワーを発揮しやすいからです。
そして日本にとっては、共同声明において「日米両国は信頼関係に基づき議論を行い、協議が行われている間、この共同声明の精神に反する行動を取らない」とされ、貿易問題が蒸し返されにくいと思われることは大きなメリットです。
加えて、「日本は農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限であること」という立場が確認されたことも大きな成果です。地方1人区の勝敗が重要と思われる2019年の参議院議員選挙を考えると、政権運営の不安要素の1つが解消したという見方もできそうです。
さらに、「知的財産の収奪、強制的な技術移転、貿易を歪曲する産業補助金、国有企業による歪曲化や過剰生産を含む不公正な貿易慣行に対処するため、日米または日米欧三極の協力を通じて緊密に作業していく」という内容は、貿易問題のターゲットが中国であることを明確にしたものと評価できます。
2国間とはいえ、貿易問題の交渉は簡単ではなく、通常は時間が必要です。したがって、少なくとも半年程度は、日米貿易問題が日本株の直接的な悪材料となる可能性は小さくなったと考えます。
上値は想定以上に大きなものになる?
それでは、日経平均が下落しないとして、すでに株価は割高なのでしょうか。下図は、日経平均の割高・割安を判断する指標の1つである予想PER(株価収益率)の、安倍晋三政権が成立した翌月=2013年1月からの推移です。
足元では上昇しているものの、その上昇幅が小幅に留まること、さらに過去の水準と比較すると割高ではないことがわかります。
私は、2019年3月期の日本企業の業績については、1ケタ台後半の経常増益率が期待できると考えており、これは市場の予想よりも強い見方であると思われます。もしこの見方が正しければ、上記の予想PERは(株価が一定であれば)さらに割安な値になります。
7月にご紹介した見方=「株価の上値は想定以上に大きなものになる可能性」を結論として、今回の記事は終わりにしたいと考えます。
(文:アセットマネジメントOne チーフ・グローバル・ストラテジスト 柏原延行 写真:ロイター/アフロ)