はじめに

10月の世界の株式市場は、スタートこそ9月からの堅調な展開を維持しました。NYダウは最高値を更新し、日経平均株価も27年ぶりの高値を付けた場面がありました。しかしその後、米長期金利の上昇を嫌気して米国株が下落すると、世界的な株安に発展しました。依然、不安定な様相をみせている株式市場、今後上昇トレンドが復活することはあるのでしょうか。


相場はアク抜けする可能性あり

今回の大幅株安はの発端は、貿易摩擦による世界的な景気のスローダウンが改めて意識されたことが要因の1つとされています。今年2月にも米長期金利の上昇をきっかけに株価が大幅調整した経緯があり、その当時の状況と重ね合わせる見方が一般的です。

2月の調整を乗り越えてきた株式市場では、当初、10月上旬の下げをある程度想定の範囲内の動きと受け止める向きが多かったことも事実でしょう。7~9月期の決算発表で良好な内容が確認できれば、再び上昇基調を取り戻す、との楽観姿勢が支配的だったためです。しかし、足元にかけてはセンチメント改善につながる有力な手掛かりを得られないまま、相場は軟調な展開を強いられています。好調だった米国株もNYダウやS&P500が昨年末水準を下回る状況にあります。

とはいえ、決算発表はこれから佳境を迎えます。強気の見通しが示されなくても、足元の状況について悪材料出尽くしとなれば、相場はアク抜けする可能性があります。また、11月6日の米中間選挙で波乱が起きなければ、市場では安心感が高まりやすいと考えられます。

さらに、11月末に予定される米中首脳会談で通商問題に進展が見られれば、その先の相場に明るい展望が開けそうです。年末にかけての相場は上向きやすいという季節性も追い風となります。「~すれば」といういくつかの前提条件をクリアする必要はあるものの、年末に向けての株価回復シナリオは依然として有効と見ています。また、その際には再び米国株と日本株の優位性が高まるとの予想です。

米国のファンダメンタルズは好調

世界的な株安の引き金を引いた米国の長期金利上昇は、足元で落ち着いた状態にあります。長期金利は引き続き3%台で推移していますが、あくまでも安定的です。米国株を取り巻く環境は不透明感が強まっていますが、変わらないのは米国のファンダメンタルズの好調さであり、それが株価反発の拠り所になると見ています。

リフィニティブの調べによると、7~9月期の増益率の見通し(10月26日時点)は前年同期比で+25%を超えており、企業業績の着地は概ね良好と判断できます。好業績に裏付けられた高水準の自社株買いも、株価を一定レベルで下支えすると期待されます。

一方、マクロの景気も9月のFOMC後の記者会見でFRB議長が「Bright Moment(輝かしい局面)」と表現したように、極めて良好な状態にあります。しかし、10月のIMFの報告では、貿易摩擦の激化によって、米国経済は少なからぬダメージを受ける可能性があることが示され、市場参加者は警戒感を強めました。

ただ逆に、米景気の見通しが弱気に傾くことによって、今後、金利上昇圧力が後退していくことも考えられます。あくまでも程良い景気拡大が続くことが前提となりますが、その場合、金利上昇を材料にした株価調整には歯止めがかかると期待されます。

中国との貿易問題に関しては、短期決着というより持久戦を覚悟する必要がありそうですが、中間選挙の結果を受けて、また、米中首脳会談を控えて、米国の強硬姿勢が軟化していく可能性がある点はポジティブに受け止められるでしょう。現時点では、米国株の上昇トレンドが完全に下向きに転じたとは考えておらず、基本的には上向き目線で臨みたいと考えています。

日本株の先行きはどうなる?

10月は日本株も米国株急落の煽りを受けて、大幅な調整を強いられました。日経平均株価は月初に27年ぶりの高値を付けた後、約3週間で3,000円超の下落となりました。ただ、市場では2月の急落時ほどの焦燥感が漂っていないようにも見受けられます。通常、リスクオフの場面で進む為替の円高が、今回についてはさほど顕著に見られていないためです。

業績の見通しに大きな揺らぎがなければ、それを裏付けとして、下値での押し目買いが入りやすいと見られます。やはり、12ヵ月先予想PERで見て12倍近辺の状況下では、日本株の相対的な魅力度が高まりやすいということなのでしょう。日米のPER格差は依然として広がったままで(日本株が割安)、日本株の巻き返しが期待できそうな場面です。

海外では11月に米中間選挙や米中首脳会談が予定され、EU離脱交渉の最終合意に向けた作業も続きます。それに対して日本では、そこまで大きな政治イベントは予定されていません。海外の結果次第では、日本株にも影響が及ぶことは容易に想像できるが、少なくとも日本がショックの震源地となることは避けられると考えます。

不透明感を好まない世界の投資マネーが、割安な日本株へと流れ込むシナリオを想定すると、パフォーマンスの面でも日本株の優位性が浮かび上がります。決算で改めて日本企業の好業績が確認できれば、その可能性がより現実味を帯びてくるでしょう。年末に向け、日経平均株価が再度、回復基調を強める展開も十分にあり得ると見ています。

(文:大和証券 投資情報部 チーフ・グローバル・ストラテジスト 壁谷洋和)

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