はじめに
「話の途中で頭が真っ白になる」「どんな順番で話せばいいかわからない」
このような悩みをもつ、ビジネスパーソンは少なくないはずです。話し下手を直そうと努力するものの、かえって話が長くなり自爆……。ますます、話すことが億劫になってしまうという悪循環に。
そのような人たちに「言いたいことは『1分』にまとめなさい」と提案するのが、人材教育コンサルタントとして年間で3000人以上のビジネスパーソンに「話し方の技術」を伝えてきた、山本昭生氏です。
「1分間にまとめて話す」とは、どういったことなのでしょうか? 山本氏の著書『言いたいことを1分にまとめる技術』より、その基本とテクニックを見てみましょう。
短い話は喜ばれ、長い話は嫌われる
1分間話法とは、「1つの発言は1分間」を意識して、相手に言いたいことを伝える話し方です。これは「日常のコミュニケーション」「会社での報・連・相」「会議中の発言」など、さまざまな場面で活用できます。
1分間話法のメリットを、聞き手と話し手の立場から考えると、それぞれ次のようになります。
◎聞き手のメリット
・時間をとられない
・短い話なのでわかりやすい
・理解したり、記憶するうえで脳への負担が軽くてすむ
◎話し手のメリット
・話の核心を端的に伝える習慣がつく
・話に見出しをつけて話す習慣がつく
・「いろいろ話さなければ」という準備の負担が軽くなる
・余計なことを言う時間がないので、話の運びが、ダラダラしなくなる
話を聞いていて時間が短いと感じるか長く感じるかは、当然ですが聞き手の感覚によります。しかし、聞き手側として「短い話がいちばんいい」というのは確かです。
きちんとした内容であることを前提として、会議での発言やスピーチは短ければ短いほど喜ばれます。一方で、いくら内容のある話であったとしても、予定時間を大幅に過ぎるようであれば周囲の人は少なからず不満を感じるでしょう。
1分間でどのくらい話せるか?
聞き手が聞きやすい速度を文字数にすると1分間に300~350文字くらいです。1分間に400文字くらいで話すと、早口に聞こえてしまいます。ただし3分から5分程度話す場合は、話の緩急、メリハリを考慮して、1分間に400文字で話す部分があっても問題ありません。
Word文書にすると、1行40文字設定の場合、8~9行分、400字詰原稿用紙(20文字×20文字)だと、16~18行くらいです。実際の場面では「文字数」と「間」と「速度」の要素が絡んでくるので、文字数の数えやすい新聞記事などを読んでみて、1分間の感覚を身につけるといいでしょう。
練習してみると、「1分間話法」の簡潔さ、話の核心をまとめることの重要性に気づけるはずです。「情報量とわかりやすさは反比例する」ことを意識することが、話し上手への第一歩になります。
「三角シナリオ法」で1分にまとめる
「1分間にまとめる」といっても、それができないから苦労している、という人もいるでしょう。そうした人たちに山本氏が教えてくれる具体的なテクニックが、「三角シナリオ法」です。
三角シナリオ法は以下の3つを骨格とします。
(本書72ページより)
1. 「ひとことで言いたいこと(主張・意見)」(20文字程度)
2. 「主な内容」(1分間の場合は、1、2項目)
3. 「理由・具体例」
この1~3の順番で話し、最後に1を繰り返して話を結ぶと、言いたいことが明確に伝わります。たとえば職場の朝礼で、「グループ内のコミュニケーションについての問題提起」について1分間スピーチをするとします。
(ひとことで言いたいこと)
私の意見を、ひとことで言いますと、「顔の見える範囲でのやりとりは、対面が原則」(20文字)ということです。
(主な内容)
それでは、メールを使う場面について、フロア外とフロア内の2つの視点から意見を述べたいと思います。
まず1点目は、フロア外の人には、メールは大いに活用すべきだと思います。2点目は、フロア内の人へのメールでの連絡については、顔を合わせるのも仕事ですから、対面でのやりとりが原則だと思います。
(理由・具体例)
2点目のフロア内の場面について、なぜそう考えるかというと、先日、隣の課のW君が「この前、頼んだ件、まだ回答がないけど……」と、隣の列のI君に声をかけました。するとI君は、「とっくにメールで回答したよ」と答えたので、W君は「直接言えばいいじゃないか……」と口論になっていたからです。
(結び)(最初の「ひとことで言いたいこと」を、もう1回言って結ぶ)
ここまで考え方の違いが出てきていますので、「顔の見える範囲でのやりとりは、対面が原則」と明確に指導すべきだと思います。(本書74~75ページより)
いかがでしょうか? 最初に「顔の見える範囲でのやりとりは、対面が原則です」と言いたいことを提示して話しはじめたことで、聞き手はこれからどんな発言がされるのかを予想でき、集中して話の内容を聞くことができます。
もし、理由・具体例からはじめた場合は、つい話も長くなってしまい、「それで、何が言いたいの?」という不満につながってしまいます。
同じ話の内容でも、順序を変えるだけで「相手への伝わりやすさ」「相手の理解のしやすさ」が格段に変わる。このことを念頭に、話す場面を意識して話の構成・流れを設定しすることが、「1分間」の使い方をおのずと導き出してくれるでしょう。
「話し上手」というのは、決して流暢に、すらすらと話すことだけを意味しているわけではありません。相手の身になって考え、話すことが、話し上手になるための第一歩です。
そのうえで「1分間にまとめて話す」話し方の技術を習得することが、話し方のコツを習得するための近道です。仕事や日常で使える話し方の心得と方法が身につく『言いたいことを1分にまとめる技術』は、「伝わらない……」と悩んでいる人にとって役立つ1冊となるはずです。
言いたいことを1分にまとめる技術 山本昭生 著
どんな場面でも一発で伝わる話し方を「相手の身になる」+「1分に話をまとめる」の2軸で解説! 相手の身になることは、話し方の土台です。また、大切なことは短く簡潔な話でしか伝わりません。本書では、そんな話し方の技術を豊富な事例とともに解説します。
記事提供/日本実業出版社