はじめに

株式投資では通常、利益・財務状況・キャッシュフローといった情報を手掛かりに、今後成長が期待できる企業をピックアップします。しかし、「人生100年時代」に備えた長期投資となると、社会の発展に寄与し、将来も持続的に成長できる会社かどうかといった視点も重要となります。そこでカギとなるのがSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)です。


SDGs(持続可能な開発目標)とは?

SDGsは、2015年の国連サミットで採択されたもので、2030年を期限として国際社会が協働で取り組むべき開発課題のことです。貧困に終止符を打つ、気候変動への緊急対策をとるといった17の目標が設定されています。

実際、長期で運用する投資家が企業を評価する視点は、こうした持続的成長を意識したものに変化してきています。これを受けて企業の行動にも変化がでてきており、自社の経営戦略にSDGsの概念を取り入れるようになってきました。SDGsに沿った経営戦略をとることで市場や消費者から評価され、ビジネスチャンスにつながるといった考え方が広まりつつあるようです。

実は米国が環境先進国になっている

米トランプ大統領は2017年6月に、パリ協定から離脱すると表明しました。石炭産業の復活を公約に掲げ、オバマ前政権が導入した石炭火力発電所への規制の撤廃を決めたのです。にもかかわらず、米国では、個別の企業ベースでみると再生可能エネルギーへのシフトに意欲的であり、意外なことに環境先進国となっているのです。

この動きはエネルギー燃焼に伴う二酸化炭素(CO2)排出量からみてとれます。2017年までの10年間でみると、世界全体のCO2排出量は前年比で11%増加しましたが、米国は13%も減少しているのです。中でも、風力発電や太陽光発電の導入が着々と進んでいます。SDGs を意識した企業の取り組みが、米国において「シェール革命」に次ぐような新しいエネルギー革命を起こしつつあるのです。

再生可能エネルギーの推進は、SDGsの17の目標に掲げられている「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、「気候変動に具体的な対策を」に該当します。例えば、アップル、グーグル(アルファベットの検索エンジン子会社)、マイクロソフト、スターバックス、ウェルズ・ファーゴは再生可能エネルギーの利用率100%を宣言し、すでに達成済です。

このように米国で顕著に再生可能エネルギーへのシフトが進んでいる要因は、主に2点あると考えられます。
まず1つ目は、コスト面でのメリットです。米国では風力や太陽光といった再生可能エネルギーの発電コストの低下が進み、2018年に入ってからは風力・太陽光とも火力発電より、コスト面で不利なプロジェクトがなくなりました。

そしてもう1つがSDGs意識の高まりです。米国の大企業を中心に、再生可能エネルギーを積極的に活用する取り組みが進んでいます。加えて、風力や太陽光発電がコスト競争力を持つようになり、経済合理性がでてきたことが企業の背中を押していると考えられます。

米国はトランプ大統領の就任で、再生可能エネルギーの導入が阻まれるのではないかという懸念がありましたが、今のところ、その影響はみられません。企業ベースでのSDGsの意識の高まりに経済合理性が加わったことで、再生可能エネルギーへのシフトは今後、ますます強まっていくと考えられます。

データセンターへの投資拡大がカギに

米国における再生可能エネルギーの普及を主導しているのが、アップル、グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックといったIT企業です。あらゆるモノがネットにつながる「IoT(Internet of Things)」や動画配信の普及でデータ量は急激に増加し、処理するためのデータセンターの投資が増えていることが背景にあります。ただ、データセンターの電力消費量は並大抵の量ではなく、発電所の増設が必要です。実際、風力発電の電力量は急速に伸びています。

SDGsの観点と経済合理性の観点から再生可能エネルギーの需要拡大が見込めるうえ、IT企業によるデータセンターの建設ラッシュが電力消費量の急増をもたらすことから、発電業者のビジネスチャンスが拡大しています。

世界最大の企業はフロリダ州を地盤とする電力会社のネクステラエナジー(NextEra Energy)です。中長期的に成長が期待できる企業をピックアップする際、SDGsの観点からビジネスを拡大できる企業に着目するのも投資アイディアとしては有効だと考えられます。

(文:大和証券 投資情報部 花岡幸子)

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