「2玉54万円の柿」が世の中に存在すると言われたら、あなたは信じられるでしょうか。54玉2万円でも驚きの価格なのに、誤植ではなく2玉で54万円という価格です。

岐阜県が開発した高級柿「天下富舞」が2個54万円で競り落とされ、各メディアは一斉に落札価格をタイトルに入れて配信しました。なぜ、これほどの高値が付けられたのか。高級柿・天下富舞の秘密に迫ります。


高額落札は「ご祝儀相場」だけではない?

株式市場には「ご祝儀相場」という用語があります。言わずもがな、結婚式のご祝儀から来ているもので、株式市場では新年最初の取引、商品市場では新物の取引などの際に高額な価格が付く相場を指します。

生鮮食品のセリでも同様に、初物の取引の際に高額な落札価格が付きます。フルーツのほかに、マグロやカニなどがしばしば高額落札で話題になります。このように、ご祝儀相場を広告宣伝として活用する場合も多々あります。

今回の天下富舞も、このご祝儀相場で2玉54万円という価格が付いたわけです。とはいえ天下富舞は、ご祝儀相場ではない通常の時期でも、1玉1万円以上するものもある高級な柿なのです。

いったい何が一般的な柿と違うのでしょうか。

天下富舞とはどんな柿なのか

天下富舞は、岐阜県が開発した「ねおスイート」という品種の一種です。ねおスイートは高糖度が特徴の「新秋柿」と、サクサク食感が特徴の「太秋柿」を交配して開発されました。このねおスイートの中で特に品質が高く、JA全農岐阜の認定を受けたものが「天下富舞」を名乗ることができるのです。

「開発にはかなり長い時間を要しました。もともとは高級柿の開発という育種目標ではなく、長年品種を更新できず作り続けてきた現行品種の食感などを改善する目的で開発に取り組みました」(JA全農岐阜)

結果的にできあがった柿が非常に食味に優れて、他のフルーツと比較しても糖度において類を見ない品種となったため、高級路線に舵を切ったというのが、天下富舞の開発経緯。実際、天下富舞の糖度は平均で20度、果頂部で23度以上と、とてつもない甘さです。

天下富舞は「天下人」「大将」「武士(もののふ)」という3つの等級に格付けされています。その格付はとても厳格に運用されており、検査員によって1つ1つしっかりと検査を受けて、基準をクリアしたものに認証シールが付けられます。

「天下人」の基準: 糖度25度超、3L(300g)サイズ以上、外観の優れていること
「大将」の基準: 糖度20度超、3L(300g)サイズ以上、外観の優れていること
「武士」の基準: 糖度18度超の天下富舞

この柿を楽しめる期間は10月下旬から11月上旬までの非常に短期間。まさに“幻の柿”というべきフルーツなのです。

熱狂的なファンがつく理由

現状では、出回る期間が短く、価格も簡単に手が出せる水準とは言いがたい天下富舞。どんな人がどんな用途で購入しているのでしょうか。

「多くはギフト目的での購入で、ビジネスギフトの注文もあります。甘さに驚かれ、『今まで食べた柿の中で間違いなく一番おいしい』と言うお客様もいました。また、県内(岐阜県)の方から『大切な方に贈り物をする際の選択肢が1つ増えてうれしい』という、郷土愛にあふれた言葉もいただいています」(JA全農岐阜)

天下富舞への反響は上々のようです。筆者は高級フルーツギフトショップを経営しており、天下富舞ではありませんが、太秋柿や富有柿を取り扱っています。購買データを読み解くと、そこには「高級柿には熱狂的なファンがつく」という事実が見えてきます。

柿はスイカやメロンに比べると、日持ちするフルーツではありません。届いたら早く食べなければ、追熟して柔らかくなりすぎてしまいます。一見すると贈答に向かないように思えますが、逆に楽しめる期間がとても短いので、「今しか食べられない」という限定感も手伝って、「毎年、柿の時期は絶対に逃さないようにしている」という熱狂的なファンがいます。

こうした“限定感”がプレミアムとなり、初物だと2玉で54万円、それ以外でも1玉1万円超という価格を生み出しているわけです。

海外輸出のチャンスはありそう?

近年は柿の海外輸出も伸びています。高級フルーツは日本の得意分野であり、天下富舞にとっても海外は非常に有望な市場だと考えられます。

しかし一方で、近年はシャインマスカットやイチゴなどの国産品種が海外に流出。現地で勝手に栽培・販売されている事態も起きており、海外輸出にはリスクも伴います。

この点について、JA全農岐阜では現在、日本を代表する「富有柿」を香港、タイ、シンガポールの富裕層向けに輸出しており、岐阜県は韓国や中国において品種登録手続きを進めています。シャインマスカットやイチゴの二の舞いにならないための措置を取る予定です。

市場が海外にまで拡大すれば、短期的には国内で品薄になることも考えられますが、中長期で見れば、生産者が増え、手が届きやすい価格になることも期待できそう。そうなれば、われわれ消費者にとって、柿がより一層身近なフルーツになるかもしれません。