はじめに
12月7日に発表された米11月雇用統計は、非農業部門就業者数(以下、NFP)が予想中心値前月比+19万8千人に対し同+15万5千人と、一見弱い内容となりました(9月10月分合わせて1万2千人下方修正)。
この結果をどのように見ればよいのか、また、これから年末の相場値動きをどう読めばよいのか、説明します。
米11月雇用統計は決して弱くは無い
冒頭、米11月雇用統計の内容は「一見弱い内容」と書きました。しかし筆者のNFP事前予想は+10~15万人と、公表された結果より低いものでした。その理由は、米雇用統計調査週(12日を含む週)の米失業保険継続受給者数が10月と比較して急増していたことと、米国に寒波が襲来していたためです。
これらの点を考慮すると、11月の前月比+15万5千人という数字は決して弱くはないととらえています。米FRB当局者も2年前から「+10~15万人/月の雇用増があれば十分」と言及しており、事前予想中心値比での相場の動きに過剰反応すべきではないと筆者は考えています。
しかも、上述した米失業保険継続受給者数は、雇用統計調査週の翌週に急減しており、次回の雇用統計発表時に11月分NFPは上方修正される可能性が高いとみています。
米国の利上げ見通しを予測する上で注目されていた平均時給は、予想中心値前月比+0.3%・前年比+3.1%に対して、前月比+0.2%・前年比+3.1%と発表され、10月分の前月比が+0.1%に下方修正されたこともあり(10月速報値前月比は+0.2%)、「弱い」と判断されました。
前年比+3.1%は決して弱い数字ではありませんが、これもまたNFP同様、事前予想中心値比での過剰反応を強めた感が否めません。
市場参加者が少なくなる年末の動きは?
筆者は1997年9月から2001年3月まで邦銀のニューヨークで勤務していました。その時、非常に驚いたのは、「欧米人のメリハリの有り過ぎる」働き方です。当時の日本人の多くは残業代が無くても夜遅くまで働いたり、休暇を取得しても仕事に出てきたりすることが多かったと記憶しています。
そんな「メリハリが無い」日本人の働き方に比べて、「メリハリ有り過ぎる」欧米人の多くは、11月のThanksgiving Day(感謝祭)以降はお休み気分あるいはお休み取得で、真剣に相場に取り組む人はあまりいなかったと感じています。つまり、お休み気分・クリスマス休暇中に本気で相場を張りに行く人は少ないと筆者は思っています。
人間だけが参加している相場であれば、買いも売りも少なくなるのでしょうが、今はA.I.が1日24時間・365日動いてくれます。そんな時、ネガティブなニュースが続くと、世界中のA.I.が全て「売り」という同じ方向で相場に参加してきます。市場参加者が少ない状況のもとでのA.I.の動きは下落の値幅を増幅していると考えられます。
今回の米11月雇用統計や米中通商交渉に関するトランプ政権内からの発言、過去は米リセッションに結びついた米金利逆イールド(長短金利逆転)等々、ファンダメンタルズを無視したA.I.の過剰反応が現状の相場を支配していますが、年が明けると欧米の投資家(人間の方)は一斉に戻ってきます。
一方のA.I.だって「利食って(利益を確定させて)なんぼのもん」のはずです。市場参加者が少なく薄いマーケットでの売りは、市場参加者が少なく薄いマーケットのうちに買戻しが出るものと筆者は考えています。
以上のことから、この12月の相場が来年の方向性を決めると解釈するのは時期尚早でしょう。
(文:大和証券 チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄 写真:ロイター/アフロ)