先日、東京・六本木を歩いていると、不思議なタクシーとすれ違いました。屋根の上の行灯がある位置に付いていたのは、即席カップそば「どん兵衛」のパッケージを模したもの。珍しい外観に、思わず目が釘付けになってしまいました。

実はこのタクシー、あのDeNAが12月5日に運航を始めた「0円タクシー」です。いったい、どんなカラクリで運賃ゼロ円を実現させたのでしょうか。


エリア拡大に伴う期間限定サービス

車体だけでなく、内装も「どん兵衛月見そば」仕様になっている、このタクシー。車内の専用タブレットには「ツキを招く月見そば」のプロモーション動画が流れ、どん兵衛天ぷらそばももらえるそうです。

なぜ運賃をゼロ円にできるのかというと、スポンサー付きタクシーだから。今回は実験第1弾。スポンサーは日清食品です。


車内もしっかり「どん兵衛」仕様

DeNAは今年4月、「タクベル」という名称で、アプリによるタクシー配車サービスを始めました。路上でアプリを立ち上げてタクシーを呼ぶのですが、一番近くにいるタクシーがすぐに来てすぐに乗れる、到着目安時間がわかるから待ち時間がある場合はその時間が有効に使えるのが特長です。

マップ上にピンを立てて申し込むので、乗りたい場所を正確に指定することもできます。ほかにも、料金のネット決済がアプリ上でできるので、車内で支払いをしなくていい、つまりサイフの中に1万円札しかなくてドライバーに嫌な顔をされたり、気まずい思いをしないで済む、といったことをセールスポイントにしています。

当初は横浜・川崎エリアで提供していましたが、東京都内にも拡大するにあたり、サービス名をタクベルから「MOV(モブ)」に変更。同時に始めたのが、期間限定の0円タクシーというわけです。

「23区内ならどこでもタダ」のカラクリ

現在、モブで呼べるタクシー会社は都内だと荏原交通など6社。この6社に協力してもらい、一部の車両をどん兵衛仕様に変えたといいます。投入車両数は全部で50台だそうです。

ただし予約はできないので、路上でアプリを立ち上げて呼ばなければいけません。呼べる場所は渋谷区、新宿区、港区、中央区、千代田区付近という、若干アバウトな設定です。

アプリを立ち上げると、近くを走っているタクシー会社が表示されますので、その中に0円タクシーがあれば、申し込むことができます。もちろん通常の配車サービスも実施していますので、タクシー会社を変えれば通常の配車サービスが受けられます。


行灯も「どん兵衛」仕様でインスタ映えしそう

0円タクシーの場合、行き先は東京23区内ならどこでもタダで行ってくれます。料金は日清食品とDeNAが負担して、タクシー会社に支払います。経路は指定不可。それでもかなりの距離になってしまう可能性もあるのですが、「それも含めてシミュレーション済み」(DeNA広報)だそうです。

タダで乗れるうえ、どん兵衛までもらえるとなったら、人気が出るのも当然で、かなりツキもないと乗れません。今回は実験なので、12月5日から12月31日22時までの期間限定。呼べる時間は朝7時から夜22時までです。

次回の実施があるのか、今後継続的に実施する計画はあるのかどうか、大変気になるところですが、「スポンサーが付けば実施したい」(同)そうです。継続的なサービスにできるかどうかは、安定的・継続的にスポンサーが付くかどうか次第ということなのでしょう。

閉鎖空間での高い効果に着眼

テレビを見ない若い世代が増え、テレビCMの効果が改めて問われている中で、実にユニークな試みといえます。ラッピングバスは一般化してずいぶん経ちますが、料金に目をつけたひらめきは見事です。

渋谷駅周辺から最も遠そうな足立区と草加市との県境付近までの料金を調べてみたところ、所要時間は30分、料金はおよそ1万円。一方、テレビCMは1回15秒の放映で15万~25万円くらいだそうです。どちらが費用対効果が高いのかを単純に比較することはできないでしょう。

しかし、少なくとも聞き流してしまうテレビCMとは異なり、0円タクシーによる刷り込み効果は強烈なはず。ツキに恵まれて乗車できたら、友人や会社の同僚に思いっきり自慢できそうですし、忠誠心も芽生えやすい気がします。

タクシーの利用者数は25年前の半分に減っているそうですが、この試みが成功し、無料タクシーが一般化すれば、利用者は当然、激増するはずです。

そこで問題になるのは、ドライバーが確保できるかどうかでしょう。もっとも、利用者が増えればタクシー会社の経営状態も改善し、ドライバーの待遇改善につながる可能性は十分にあります。この試み、タクシー業界の収益構造を劇的に変えてしまう可能性を秘めているかもしれません。