はじめに
11月19日の逮捕から1ヵ月以上が経過した、日産自動車のカルロス・ゴーン前会長。12月21日には会社法違反(特別背任)の疑いで再逮捕され、今も多くのメディアで関連報道が続いています。
このゴーン氏の逮捕を受けて、筆者の中で素朴な疑問として沸き上がったのが「取り調べは英語でやるのか、日本語でやるのか」でした。
今回の事案は、検察の中でもエリートが集まる東京地検特捜部の担当事件ですので、英語に堪能な検事が取り調べに当たり、通訳は使っていないようです。が、訪日外国人数の増加に伴い、容疑者として警察に逮捕される外国人の人数も増加の一途をたどっています。
外国語に堪能な検事ばかりではないでしょうし、警察官となったら語学に堪能な人の割合はもっと下がるでしょう。冤罪を出さないため、あるいは起きた事件の真相を明らかにするため、容疑者となった外国人と、彼らを弁護する弁護士、そして捜査当局とのコミュニケーションに、通訳は欠かせない存在です。
これまでほとんどその実態に世間が関心を寄せることがなかった、刑事事件に関与する司法通訳の世界。実は、さまざまな問題をはらんでいるのです。
司法通訳には3種類がある
最初に、刑事事件の流れをざっと説明しておきましょう。まず警察が容疑者を逮捕し、取り調べをして48時間以内に一応の捜査を終え、身柄を管轄の地方検察庁に送ります。
検察は24時間以内に捜査内容を吟味し、裁判所に容疑者を勾留請求するかを検討します。裁判所から勾留許可が下りたら、10日間の勾留が可能になり、裁判所が認めればさらに10日間の期間延長が可能になります。
この間に検察は起訴して裁判にかけるか、起訴しないで釈放するかを決めます。起訴されると容疑者は刑事被告人になります。
司法通訳には捜査通訳、法廷通訳、弁護通訳の3種類があります。刑事事件の一連の流れ踏まえたうえで、通訳の登場場面を考えてみましょう。
司法通訳の登場場面と雇い主
まず警察での取り調べの場面です。この場面では、通訳は警察に雇われる「捜査通訳」になります。身柄が検察に送られると、今度は検察官が取り調べをしますから、この場面でも「捜査通訳」が登場します。ただし、この場合の雇い主は検察です。
さらに、裁判が始まったら、法廷で通訳をする「法廷通訳」が登場します。この場合の雇い主は裁判所です。また、容疑者には必ず弁護人が付きます。外国人でも国選弁護人を付けることができるからです。弁護を引き受けた弁護士が、容疑者に接見する際に雇うのが「弁護通訳」です。
容疑者が自ら弁護士を雇う場合は、雇い主が弁護士ですが、国選弁護人を使う場合は、場面によって雇い主が各地の弁護士会であったり、日本弁護士連合会(日弁連)であったり、「法テラス」(資金力がなくて弁護士を自力で付けられない容疑者・刑事被告人でも弁護士を付けられるための支援をする機関)という国の機関だったりします。
警察、検察、裁判所、弁護士いずれも、独自ルートで通訳を雇うことは可能ですが、それぞれに登録制度があり、登録名簿に登載されている人の中から選ぶ場合が一般的です。こういった刑事事件関連の通訳をやりたい人は、警察、検察、裁判所、各地の弁護士会、それに法テラスに登録をして、名簿に載せてもらうわけです。