はじめに

日本時間1月3日午前7時半ごろ(NY時間2日午後5時半ごろ)にドル円相場は1ドル104円87銭といった円高に大きく振れました。

また、株価の乱高下も続いています。米国株式市場は現地時間3日には前日発表されたアップルの業績下方修正を引き金に大きく値を下げたと思いきや、翌日にはその下げ分を打ち消す上昇です。

この不透明な市場をどう見ればよいのでしょうか、為替・株価それぞれの変動背景を解説します。


年末年始はネガティブ報道のオンパレード

昨年12月から年明けにかけては市場にとってネガティブな報道が相次ぎました(下図)。

以前の記事で触れたように、欧米人がほとんど参加していないといってもいい薄いマーケットにおいて、24時間・365日働くA.I.(人工知能)が一斉にネガティブ報道に反応すると、通常以上の暴落が引き起こります。前月指摘した懸念が現実化してしまった形です。

日本時間1月3日午前7時半ごろ(NY時間2日午後5時半ごろ)にドル円相場は1ドル104円87銭といった円高に大きく振れましたが、その背景は分かりません。

ただインターバンク時代の過去の経験から考えると、市場参加者が少ない中(ビッドあるいは板がほとんど無い中)をA.I.が売りに行って、勢い余って104円87銭という水準になってしまったのではないかと想像しています。104円87銭でドルを売った人間?(A.I.?)もびっくりして慌てて買い戻したかもしれません。おそらく、104円87銭よりかなり上の水準で買戻しした可能性もあるでしょう。

筆者は、人が参加していないA.I.中心の市場の動きにあまり振り回される必要は無いと思っています。前月に触れたように、この年末年始の動きを踏まえて今年1年を占う必要は全くないでしょう。

米12月雇用統計は市場予想よりも強い内容

1月4日に発表された米12月雇用統計は、非農業部門就業者数(以下、NFP)が予想中心値前月比+18万4千人に対し同+31万2千人と、極めて強い内容となりました。筆者予想は同+20万人程度で、加えて11月分が5万人程度上方修正されるという、市場予想よりも強いものでしたが、それをはるかに超える内容でした。

失業率は労働参加率の上昇を受けて3.9%(予想3.7%)と、11月の3.7%から悪化しましたが、労働参加率の上昇を材料に注目されませんでした。平均時給は前月比+0.4%、前年比+3.2%(予想 前月比+0.2%、前年比+3.0%)と強い内容でした。

結果として今回の米12月雇用統計は好感され、マーケットはドル買い、米金利上昇、米株式指数先物上昇という反応になりました。アップル・ショックによって引き起こされたマーケットの混乱に収束の兆しが見えてきました。この時点で、下値で突っ込んだA.I.は突っ込みポジションを止めざる得なくなっていたのではないでしょうか?

筆者が気にしているのは、今回の強過ぎるNFPは、米政府機関一部閉鎖による集計遅延が影響しているかどうかという点です。仮に解雇分の集計が遅れていたりすると、来月の下方修正の可能性も出てくるので、警戒はしておきたいと思います。

パウエルFRB議長発言で相場が好転

米雇用統計発表後しばらくして、アトランタで開かれた米国経済学会(AEA)年次会合でのパウエルFRB議長、イエレン前議長、バーナンキ元議長のパネル討論会が開催されました。パウエル議長の発言が市場に流れ始めると、米雇用統計後のドル円上昇・米金利上昇・米株式指数先物上昇の流れは更に勢いづきました。とりわけ、以下のヘッドラインが好感された模様です。

パウエル議長の発言は、「米利上げ休止」と解釈され、リスクオン・リスクオフだけで説明されることの多いドル円は堅調に推移しましたが、その他の通貨ペア(対ユーロや対豪ドル等)でドルは下落しました。

米株式相場はアップル・ショック後の下落を全て取り戻す上昇相場となりましたが、この激しい相場変動に振り回された人に対する欧米人の言い分としては、「年末年始という市場参加者の少ない時にポジションを張っているから悪い」ということになるのでしょう。

ただ、今後もクリスマス、年末年始、月曜早朝のオセアニア市場といった市場参加者が少ない時期・時間帯のA.I.のかく乱は続きそうです。こうした中、年末年始の混乱を収束させるきっかけをくれた米12月雇用統計とパウエル議長には心から感謝したいと思います。

(文:チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄 写真:ロイター/アフロ)

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