はじめに
2019年も1ヶ月が経過しました。年明けから様々な報道で「リスクオフ」のワードが声高に聞こえてきますが、筆者にはそのように思えません。
最新情勢や米1月の雇用統計結果から、この先の相場見通しを考察します。
米1月雇用統計は市場予想よりも極めて強い内容
2月1日に発表された米1月雇用統計は、非農業部門就業者数(以下、NFP)が予想中心値前月比+16万5千人に対し同+30万4千人と、極めて強い内容となりました。筆者予想は「NFPは前月比+22万5千人前後で、12月分は同+25万人前後に下方修正される」でした。
なお、毎年2月に発表される米雇用統計では年次改定が行なわれ、1月までに発表された数値の修正が行なわれます。1月に発表された段階で、2018年通年のNFPは前年比で+263万8千人(月平均約+21万9千800人)でしたが、若干上方修正され+267万4千人(月平均約+22万2千8百人)となりました。
各月の細かい数値は別として、2018年の雇用増が月平均約22万2千8百人というのは、極めて強いものであったと思います。
米平均時給上昇率は年次改定で上方修正
米1月平均時給上昇率は、予想前月比+0.3%、前年比+3.2%に対し、前月比+0.1%、前年比+3.2%となりました。
前月比だけ見ると、上昇率が弱まったように見えますが、これは年次改定によって2018年の平均時給が上方修正された結果と思われます。引き続き、平均時給の上昇率は堅調な推移を示しています。
米消費者物価や米個人消費支出価格指数が落ち着いているからと言って、米利下げ論を持ち出すには時期尚早と筆者は考えています。
報道先行で作られるセンチメントには注意
前回の記事で触れましたが、筆者は1月2日(木)NY引け後につけた1ドル104円87銭はA.I.による勇み足(フライング)と見ています。年末年始のネガティブ・ニュースに反応した人工知能(以下 A.I.)が作り出した超悲観相場は徐々に改善されつつあり、あの104円台が2019年相場を象徴するものだとは思っていません。
ただ、報道を見ていると、日本人コメンテーターは「リスクオフ」というフレーズが大好きなようですので、それに引きずられてセンチメントが引き続き弱くなる可能性も残されています。
米国を襲った極渦(Polar Vortex)には注意
米雇用統計(速報値)調査週は12日を含む週になります。1月はこの調査週以降に寒波「北極極渦(ほっきょくきょくうず、以下 Polar Vortex)」が米国の中西部に襲いかかりました。
Polar Vortexとは、米国上空で偏西風が大きく蛇行することによって、北極上空から「極渦(きょくうず)」と呼ばれる極めて強い寒気の渦が米中西部付近まで南下してしまう気象状況を指します。
米国時間1月31日(木)の朝には、11の州(North Dakota, South Dakota, Minnesota, Iowa, Wisconsin, Illinois, Indiana, Michigan, Ohio, Vermont and New Hampshire)で北極の気温よりも低い気温が記録された模様です。
代表的な都市のニューヨークの気温を見ても、大寒波がいかにすごかったかが分かると思います。
このような大寒波が襲来すると、指標が大きくぶれる傾向があります。今回の場合、雇用統計調査州以降にPolar Vortexが襲来したことで、3月に発表される2月分の修正値では、NFPは下方修正され、平均時給上昇率は上方修正される可能性があります。
ただ、こうした気象の影響による経済指標のぶれは、発表される瞬間の単月の指標に反応するようなA.I.や投機筋、デイトレーダーにとって重要というだけで、トレンドを大きく変えるものでは無いと筆者は考えております。
昨年から何度も触れていますが、筆者は米中貿易戦争が最終的に回避され、トランプ関税は縮小もしくは撤廃になるとみています。なぜなら、今の状況(あるいは昨年の米中間選挙の結果)を鑑みると、2020年米大統領選で、トランプ大統領に勝ち目は無いと予想しているからです。
トランプ大統領が2020年での再選を目指すからには、「米中通商交渉での妥協」の道をとらざるを得ないと考えられます。
<文:チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄>