はじめに
不慣れな日本で、働き続けられない外国人女性たち
留学や就労、一時的な観光などによって日本に暮らす在留外国人は増え続けています。法務省の統計によれば2018年6月末時点で、同省が統計を取り始めた1959年以降、最も多い263万7,251人が暮らしています。国別では中国や韓国、ベトナム、フィリピン、ブラジルなどの国が目立っています。
こうした在留外国人の中には、さまざまな状況に巻き込まれて予期しない妊娠をする女性もいます。日本人男性が認知せず、不慣れな日本で働きながら子どもを育てられなくなるケースもあります。
また、日本に不法滞在中のカップルから生まれる子どももいます。養育能力のない外国籍の親から生まれた子どもは、日本では入管法の運用によって、生後60日以内に親の母国に帰国することになっています。
しかし、さまざまな事情が考慮され、子どもが日本の乳児院や児童養護施設に措置されるケースもあります。
実親と暮らせない社会的養護が必要な外国籍の子どもが、日本にどのくらい存在するかの政府統計は現在のところはありません。しかし、社会的養護が必要な子どもの中でも“マイノリティ”に属するこうした外国籍の子どもたちの中には、日本語が不得意な子どももいます。
乳児院や児童養護施設などの施設暮らしを続ければ、同質性を重んじる日本社会で、二重の差別の対象になることもあります。養子や里子として日本の夫婦のもとで、安定した愛情を与えられる環境で育つことが社会的にも望まれています。
外国籍の子どもといっても、実際はアジア各国にルーツを持つ子どもが多いことから、見かけ上は日本人と変わらないケースがほとんどです。Aちゃんのように、日本の法律に則り決められた手続きを踏んでいくことで、日本国籍を得て、日本人の夫婦の子どもとして幸せに暮らしていくことが可能です。子どもを望むご夫婦には、こうした外国籍の子どもの特別養子縁組も、選択肢の一つとして是非考えてみてほしいと思います。
乳児健診や予防接種の案内が届かない!
一方で、芳樹さんによれば、外国籍のAちゃんを法的にわが子として手続きをしていく過程において、思いがけない問題が発生し、戸惑うこともあったといいます。その一つは、養子縁組里親委託時に、乳児健診や予防接種の案内が届かないことでした。
Aちゃんには、特例措置で短期滞在ビザが適用されていました。しかし、こうした短期滞在の子どもには住民票はありませんので、高原さんのもとにも、お知らせは届かなかった、というわけです。
しかし、さすがに乳児健診や予防接種が受けられなければ、命にかかわることになります。そこで芳樹さんは、居住地の保健所に出向いて相談をし、危機を乗り切りました。
「観光ビザ(短期滞在)の場合は、乳児健診や予防接種は、『申立書』という書類を提出しなければ受けられないことを知り、申立書を提出して無事、受けることができました」(芳樹さん)。
Aちゃんに住民票がなかったことは、ほかにも影響を及ぼしました。特別養子縁組成立後に「乳児医療証」が発行されなくなってしまったのです。困った芳樹さんは窓口の係員に相談しました。そして係員の人道的裁量で発行してもらえたそうです。
想定外の問題はまだまだ発生しました。帰化申請に必要な国籍証明書の発行に際して、実母の出身国の大使館に出向かなければならなくなったり、Aちゃんに観光ビザ(短期滞在)が適用されていたにもかかわらず、児童相談所から「不法滞在で仮放免中」という説明を受けるなど、正確でない情報を知らされたこともあったそうです。
「児相は児童福祉の専門家はいても、在留資格や国籍のことについては専門外。結局、手続きは一つひとつ自分で調べて、こなしていくしかありませんでした」と芳樹さんは明かします。芳樹さんが自分なりに進めた手続きの詳細は、次回でお伝えします。