はじめに

最近、食料品や飲食店などの値上げのニュースをよく耳にします。最大の要因は人出不足を背景にした人件費と物流コストの増加でしょう。

しかし、値上げを業績回復につなげたヤマトホールディングス(HD)の例もあれば、逆に値上げ後に来店客数が減少し、業績低迷が続く鳥貴族の例もあります。

値上げがうまくいく企業といかない企業は、どこに差があるのでしょうか。差が付くポイントがわかれば、銘柄選びのヒントになりそうです。


カギは「寡占」「需要逼迫」「世論の後押し」

値上げがうまく業績改善につながった代表例は、ヤマト運輸や佐川急便などの宅配業者です。2016年12月、例年のお歳暮需要に加えて、急増するネット通販やふるさと納税返礼品の配送増加が重なり、宅配業界がパンク状態となったのは皆さんも覚えていますよね。

配送量の増加で残業代を含めた人件費や外注費が膨らんだ結果、ヤマトHDは2017年3月期の下半期は営業赤字に陥ったうえに、労働組合から取扱量の抑制を要求されるに至りました。そこから個人向け料金を引き上げ、大口法人向けも値上げに取り組み、2018年3月期の下半期に黒字を回復。株価も黒字化後に回復に向かいました。

加えて、日本の高度成長時代や現在のアジア・アフリカのような人口増加地域のように、需要が増え続けて供給が追い付かない環境にある市場・製品も、値上げが浸透しやすいでしょう。ネット通販市場の成長で需要増加が続く段ボール業界や、中国の環境規制により鉄鋼生産の電炉シフトから需要の逼迫が続く黒鉛電極などが、わかりやすい事例です。

値上げが浸透し、業績回復につなげることができたのは、次のポイントがありそうです。

(1)圧倒的なトップシェア(ヤマト運輸の宅配便シェア44%:2017年度)
(2)寡占市場(宅配市場はヤマト、佐川、日本郵便で寡占)→他社が入り込みにくい
(3)いったん赤字になったこと→法人顧客が値上げを受け入れやすい
(4)業界全体が困ったことが社会問題として報道された→世論が値上げを受け入れやすい
(5)供給を上回る需要増加が続く分野

上記に当てはまる市場の例を挙げると、国内航空業界や新幹線、テーマパークが当てはまりそうです。製品分野では、半導体材料のシリコンウエハなどは世界的に供給業者が限られています。他にもいわゆる「オンリーワン」企業は値上げを浸透させる能力が高いでしょう。これらの企業が値上げに動いた時は、株式投資としてもチャンスかもしれません。

どんな値上げがうまくいきにくい?

それでは、値上げで業績が悪化した企業には、どんな特徴があるのでしょうか。

最初に国内消費者の動向を見る必要があります。毎月勤労統計調査によると、2018年の現金給与総額の増加率は前年比1%増程度です。家計調査でも、2018年平均は実収入0.0%、消費支出0.2%増加です(いずれも総世帯、名目ベース)。消費マインドの変化があるとしても、消費能力的には値上げの受け入れ余地はあまり大きくはなさそうです。

価格が上昇して販売が減少した代表例は、首都圏のマンションです。下図を見比べると、分譲価格が大きく上昇した首都圏では発売戸数が大きく減少している一方、価格上昇が首都圏よりは小幅にとどまった近畿圏では発売戸数の減少幅も小さく、2018年には回復傾向も見られます。

マンション価格

契約率の低下も顕著で、近畿圏が2010年から2018年までずっと70%以上をキープしているのに対し、首都圏は2010年~2015年までは70%以上でしたが、2016年以降は70%を割り込み、2018年は62%まで落ち込みました。

消費者の収入が大きく増えない中、2009年比で30%、2013年比でも19%も価格が上昇したために、首都圏マンション市場の販売動向が低迷していることがわかります。

消費者の懐具合が変わらないのに、売り手側の事情(人件費増など)で価格を上げれば、販売量が落ちるのは鳥貴族の場合も同じです。値上げが浸透した業界と異なるのは

(A)供給者側のコスト増が理由
(B)2、3社の寡占状態ではなく、圧倒的なトップシェアでもない
(C)他の商品で代替が可能
(D)生活必需品、必要インフラというわけでもなく、需要急増状態にもない

という4点です。

今回の値上げはどちらの都合か

年明け以降に値上げを発表したのは、飲料、パン・即席麺、アイス・冷凍食品、菓子類などの食品・飲料が中心です。業界大手の一角が値上げを発表すると、他社も追随するのも特徴です。どこも採算確保が大変そうなのが見て取れます。

今回の値上げのほとんどは、供給者側のコスト増が主因です。原材料価格の上昇であれば、容量を減らして価格を維持する「ステルス値上げ」も選択肢となりますが、人件費と物流コストの上昇では使えません。包装コストの上昇も追い打ちをかけているようです。

食品業界も外食業界も完全な寡占が少ない分野です。商品ごとではオンリーワン企業がいても、他の商品に代替されやすい特徴があります。

たとえば、茶飲料を値上げしたらミネラルウォーターへ、あるいは「じゃ水道水でいいや」となりやすいですし、焼き鳥を値上げしたら、回転寿司なり別のメニューに簡単にシフトしやすい。前段の値上げがうまくいきにくい条件がほとんど当てはまりそうです。

こうしてみると、値上げ→販売減となる商品・企業が続出する可能性がありそうです。

<文:ストラテジスト 田村晋一>

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