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今夏の株式市場の波乱要因?米国でくすぶる“火種”の正体

この道はいつか来た道

米連邦政府の借入限度額を定めた「債務上限」が3月2日、1年ぶりに復活。約22兆ドル(約2,450兆円)と過去最高に膨らんだ現在の債務総額が上限として設定されました。

これによって政府は新たな借り入れができなくなり、議会が上限引き上げで合意しなければ、米国債の償還や支払いが滞るデフォルト(債務不履行)を引き起こしかねない状況となっています。

世界で最も流動性の高い安全資産とされる米国債は、金融機関のみならず、外国政府も外貨準備として保有しています。デフォルトに陥れば、世界的な金融危機の発生は不可避であり、今後の米議会の動向が大いに注目されます。


たびたび市場に混乱をもたらしてきた

米国では、議会が政府の予算執行を監視しており、1917年から法律で政府の借入額に制限をかけています。国債の大量発行が金利の上昇を引き起こし、民間の資金調達に支障を来たしかねない、という発想が背景にあります。

第1次世界大戦下、政府が戦時国債を大量に発行することを通じて国民の経済的利益が損なわれないよう、法律で定められました。債務残高が上限に達すると、連邦政府は新たな借り入れや国債の利払いが難しくなるため、議会に債務上限の引き上げを認めてもらう必要があります。

2001年以降、債務上限は16回引き上げられてきましたが、「政争の具」として使われたケースが目に付きます。

債務上限

2011年には上限引き上げが何度も否決され、米国債の格下げが世界市場に大きな混乱をもたらしました。2013年は医療制度改革(オバマケア)をめぐる対立激化から暫定予算も合意できず、18年ぶりに一部の政府機関が閉鎖を迫られる事態に発展。2015年にもギリギリまで政府債務の上限が引き上げられず、金融市場は動揺し、当時の下院議長が辞任に追い込まれています。

今回も「政争の具」に使われる公算大

スティーブン・ムニューシン財務長官は、議会に早急な対処を促す一方、当面の危機回避に奔走。州政府や地方自治体支援のための特別国債の発行を停止したほか、連邦公務員の退職年金基金からの資金活用などの特例措置も発動し、9月までの資金繰りにメドをつけたもようです。

しかし、トランプ政権の大型減税や歳出拡大により、2019会計年度(2018年10月~2019年9月)に見込まれる財政赤字は約9,000億ドル(約100兆円)と巨額。早晩、資金が枯渇するのは必至の情勢ととらえられます。

にもかかわらず、議会ではメキシコ国境の壁建設などをめぐって与野党の対立が深まっており、上院財政委員会のチャック・グラスリー委員長(共和党)などは2月末の時点で「債務上限は夏までは引き上げない。秋かもしれない」と、早々に審議先送りを宣言。この問題を打開する機運に乏しいのが現状です。

現在の米議会は、上院が与党・共和党、下院は野党・民主党がそれぞれ過半数を占める「ねじれ状態」に陥っていますが、債務上限の引き上げ自体は対立軸にはなりにくいと思われます。

というのも、米連邦準備制度理事会(FRB)の緩和的な金融政策で長期金利が低く抑えられ、国民全体の財政に対する危機感が薄れていることに加え、民主党も国民皆保険のような巨額の財源を必要とする政策を次々に打ち出すなど、積極財政を掲げているためです。

しかし、ドナルド・トランプ大統領のロシア疑惑追及が空振りに終わりそうな状況下、民主党は同氏の大統領再選阻止に向けて、何でもありの姿勢を強める方向にあるもよう。結局、債務上限問題は今回も今後の予算審議などで「政争の具」に使われる可能性が高く、夏場にもデフォルト危機が取り沙汰され、市場を攪乱する展開も想定しておく必要がありそうです。

<文:投資情報部 堀内敏一>

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