はじめに

米中貿易戦争に揺さぶられる世界の金融市場。日本の株式市場も荒れ模様で、日経平均株価は10連休明け後、5月10日まで4日間の続落です。

その陰であまり目立たないかもしれませんが、外国為替市場で“ある通貨”が売り先行の展開となっています。日本の個人投資家の人気が高い「トルコリラ」です。


なぜトルコリラが人気なのか

東京金融取引所の外国為替証拠金取引(FX)、「くりっく365」の4月の取引量184万枚のうち、トルコリラ・円の通貨ペアの取引は52万枚余りに達し、米ドル・円を抑えて第1位でした。

取引が膨らむ一因は、トルコリラが高金利通貨であることです。FXの場合、買った通貨の値上がり益、いわゆる為替差益だけでなく、「スワップポイント」と呼ばれる儲けを狙う投資家も少なくありません。

「スワップポイント」とは金利の低い通貨を売って、金利の高い通貨を買うことで得られる利息のこと。日本銀行の政策金利は現在、マイナス0.1%。これに対して、トルコ中央銀行のそれは24%です。同ポイントにはこうした金利格差の大きさが反映されており、「くりっく365」だと4月の1日平均のスワップポイントは105円でした。

同月24日の取引分では同ポイントが1,221円にハネ上がりました。24日に円を売ってトルコリラを買い、翌25日に反対売買すれば、通常の11倍余りのスワップポイントが懐に入った計算です。

実際、同日にはこうした取引が急増したとみられています。FXには取引所を介在せずにFX会社と相対で売買を行う店頭取引もありますが、同ポイントの水準は通常、業者ごとに異なります。

スワップの儲けを吹き飛ばす値下がり

ただ、最近のトルコリラの値下がりは、スワップポイントの儲けを吹き飛ばしてしまうほどの勢いです。

下のグラフは過去1年間のトルコリラ・円の値動きを示したもの。昨年8月には1トルコリラ=15円台まで売られましたが、その後は22円台まで値を戻しました。しかし、足元は再び、円高・トルコリラ安の進んでいることがおわかりいただけるかと思います。

トルコリラ

昨年10月には、トルコが2年間にわたって身柄を拘束していた米国人牧師、アンドルー・ブランソン氏を解放しました。金融市場では「悪化していた米国との関係改善に意欲的な姿勢を見せた」と好意的に反応。トルコリラの買い戻しを誘発しました。

ところが、今年の3月、かつてのシリア領だったゴラン高原について、米国のドナルド・トランプ大統領がイスラエルの主権を認めることを表明したのに対してトルコが反発。再び軋轢が生じています。

同じようなタイミングでトルコ経済をめぐる悪材料が飛び出たことも、トルコリラ売りを加速させた感があります。同月前半にトルコの外貨準備高減少が明らかになったのです。「外貨準備減はトルコリラ防衛のため、中央銀行が買い支えている証拠と受け止められた」(エコノミスト)。

これを受けて、米国の大手投資銀行もトルコリラ売りを推奨するレポートを公表。もともと実体経済が脆弱なこともあって、下落に弾みがついた格好となっています。

政治動向次第で値動きはさらに不安定に?

何かと話題を集める同国のレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の一挙手一投足にも、金融市場は注目しています。

3月末に実施された統一地方選挙では、大統領の率いる公正発展党(AKP)などの与党連合が苦戦。最大都市・イスタンブールの市長選では、野党に敗北を喫しました。しかし、選挙に不正があったとするAKPの訴えが認められ、6月に市長選のやり直しが決定。国内外には批判が広がっています。

最大野党・共和人民党(CHP)の会合では、支持者らが集まって「(やり直しを決めた)最高選挙管理委員会は辞任すべきだ」「独裁者、タイイップ(エルドアン大統領)」などと気勢を上げました。

この決定を嫌気してトルコリラは急落。エルドアン大統領はこれまでに利上げを嫌って中央銀行の金融政策にも口出しした経緯があり、「イスタンブールのやり直し市長選で与党が勝利すれば、トルコリラ防衛のための利上げが難しくなる」との連想が働いたとみられます。

エルドアン大統領は統一地方選前にリラ下落を回避しようと、驚きの行動に出たことも取りざたされています。外国投資家によるカラ売りを阻止するため、リラを供給しないよう国内の銀行に圧力をかけたといわれているのです。市場で自由な売買が難しくなれば、結局、海外勢が逃げてしまう事態を招くだけのような気もしますが……。

(写真:ロイター/アフロ)

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