はじめに
米中貿易戦争が激化する中でも、日経平均株価は年初から緩やかな上昇基調が続いています。年初に1万9,655円で取引を開始した日経平均株価は、5月23日時点で2万1,151円と、年初から8%ほど上昇した水準となっています。
一方で、個人投資家の間では、米中貿易戦争に対する懸念が強く、投資姿勢は極めて慎重です。松井証券店内の「信用買い残高」の推移を見てみると、2018年初の2,562億円から1,881億円に減少しており、積極的にリスクを取りに行く気配は見られません(2019年5月21日時点)。
それではなぜ、日経平均株価は上昇しているのでしょうか。その謎を解くカギとして、このところ話題となっている指標に「NT倍率」というものがあります。
NT倍率の上昇が意味するもの
NT倍率とは、日経平均株価をTOPIX(東証株価指数)で除した数値です。日経平均株価がTOPIXより優勢に推移すれば上昇、劣勢となれば低下します。このNT倍率が、このところ大きく上昇しているのです。
TOPIXは、東証1部に上場する全銘柄の時価総額の変化を指数化したもの。一方、日経平均株価は、指数に採用されている225銘柄の単純平均株価(除数により修正)です。
そのため、構成比に偏りがあり、日経平均株価ではファーストリテイリングが11.5%、ソフトバンクグループが5.3%、ファナックが3.2%と、上位3銘柄で2割近くを占めています(2019年5月23日時点)。
このうち、ファーストリテイリングは中国圏での販売が好調で、株価は上場来の高値水準にあるほか、ソフトバンクグループも世界中のハイテク企業への投資収益や大規模な自社株買いを行ったため、高値圏にあります。その結果、電気機器セクターでは株価の下落が目立つものの、日経平均全体として底堅くなっているのです。
足元の地合いに最適の投資手法は?
一方で、TOPIXの構成比上位となる銀行は、米中間の貿易戦争に伴う超低金利の継続懸念から株価が低迷している銘柄が多いほか、輸送用機械も中国での自動車販売の落ち込みにより株価は軟調です。
このような値動きの差は、昨年の7月ごろから差が顕著になっています。これは、米国が対中国で追加関税を発動した時期と符合しています。
個人投資家にとっては、株式市場のボラティリティ(変動率)が高く、投資するタイミングをつかみづらい相場が続いています。リスクを抑えつつ利益を狙う手法として、米中貿易戦争が激化するタイミングで「日経平均株価買いのTOPIX売り」、米中貿易戦争が緩和するタイミングで「日経平均株価売りのTOPIX買い」、といった「ペアトレード取引」戦略も1つの投資手法となりえるでしょう。
<文:シニアマーケットアナリスト 窪田朋一郎 写真:ロイター/アフロ>