はじめに

今週末の6月14日、チケットの不正転売を禁止する法律が施行されます。正式名称は「特定興業入場券の不正転売の禁止等による興業入場券の適正な流通の確保に関する法律」という舌を噛みそうな名称ですが、通称は「チケット不正転売禁止法」です。

転売目的でチケットを入手し、高額で転売する行為に罰則規定付きで禁止するのが、この法律の目的です。ラグビーワールドカップや東京五輪を控え、国の威信をかけて高額転売を阻止しようというものです。


チケキャン登場で市場が急拡大

まずは、この法律ができた“いきさつ”をおさらいしておきたいと思います。

行きたかったコンサートや舞台、スポーツイベントのチケットが申込み開始から1分で完売してしまい、直後からチケット転売サイトに定価の倍以上、場合によっては数十倍もの高値で続々出品され始める。こんな現象が日常的に起こるようになったのは2016年頃からでしょうか。

それ以前は、チケットを渡したのにお金を払ってもらえなかった、お金を払ったのにチケットを渡してもらえなかったといった、代金とチケットの授受の問題があり、転売サイト等の利用に二の足を踏む人は少なくありませんでした。この問題を解決したのが、チケット転売サイト「チケットキャンプ」でした。

買い手から代金を預かり、売り手にチケットを郵送させ、買い手がチケットを入手したら売り手に預かっていた代金を渡す。このエスクロー機能を担ったのが、上場会社ミクシィの子会社という信用を背負ったチケットキャンプです。これで転売市場が一気に拡大しました。

「ゲッター」の跋扈を許した法の不備

しかし、チケットキャンプの成長とともに、転売を目的にチケットを買いあさる「チケットゲッター」と呼ばれるネットダフ屋の跋扈も加速しました。

ゲッターは仕入れたチケットが全部売れなくても、「仕入れ値=定価」の何倍もの金額で転売しますので、売れ残りがあっても利益を十分確保できます。このため、チケットは一瞬で完売しているのに、会場には空席が目立つという現象も頻発するようになりました。

ゲッターが跋扈したのは、法が未整備だったことも原因の1つです。ダフ屋行為は都道府県の迷惑防止条例で規制されてきましたが、対象となるのはあくまで公道など公の場。ネット上は公の場ではないため、規制する法律がなかったのです。

結果、音楽業界から怒りの声が上がり、警察も「興行主に対し転売目的ではないと偽ってチケットを購入した」ことが詐欺にあたるという容疑でゲッターを逮捕。チケットキャンプにも警察の強制捜査が入り、2017年12月、突如運営休止を余儀なくされました。

本来、不正転売を防止する措置をとるべきチケットキャンプが、頻度の高い出品者に対して手数料を免除するなど、不正転売を助長するような動きをしていたことが明らかになったからです。

チケットキャンプの運営会社の代表者が京都府警に逮捕されたのは2018年1月。結局、起訴猶予で終わりましたが、ゲッターの増殖に一定程度の歯止めをかけたことは間違いありません。

意外と狭い規制対象チケットの定義

しかし、これで不正な高額転売が世の中から撲滅できたわけではありません。ゲッターがターゲットにするコンサートやイベントの場合、一般の人も疑心暗鬼から必要以上の枚数確保に走り、余ると高値で出品するケースも少なくありません。実際にその値段で売れるのですから、高値転売の誘惑にかられても不思議ではありません。

福山雅治さんやサザンオールスターズなど、ごく一部の著名アーティストは転売チケットでは絶対に入場できないよう、徹底した本人確認を実施していますが、それはあくまで例外です。

そもそも転売目的かどうかの定義もあいまいでしたので、チケット不正転売禁止法では規制の対象となるチケットと不正転売の定義を明確化し、(1)規制対象のチケットを(2)不正転売した場合、「1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金またはその両方」という罰則を設けました。

規制対象となるチケットを「特定興業入場券」と呼び、

(A)販売時に興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、その旨が券面(電子チケットの場合は映像面)に記載されていること
(B)興業の日時・場所、座席(または入場資格者)が指定されたものであること
(C)たとえば座席が指定されている場合、購入者の氏名と連絡先(電話番号やメールアドレスなど)を確認する措置が講じられており、その旨が券面に記載されていること

という、3つの条件すべてを備えていること、というのがその定義です。

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