はじめに
ネット依存は日本に400万人以上
今回のICD-11の作成で、報道でもうひとつ大きく扱われたのは、「ゲーム障害」という、新しい疾患名の導入です。
これは、「ゲームをする時間や頻度を自分で制御できない」「日常生活に支障をきたしてもゲームを続ける」といった状態が12ヶ月続いていることをゲーム障害と診断するものです。この新しい疾患名の導入は、2019年5月25日のWHOの総会で、正式に決定されました。
この「ゲーム障害」のICD-11への導入には、日本におけるネット依存治療の草分け的存在である、久里浜医療センターの樋口進院長が大いに尽力しました。
従来の「ICD-10」には、ゲーム障害の項目はなかったため、ゲーム依存の患者に対し、ICDの疾病分類を当てはめる際には、「その他の習慣および衝動の障害」という漠然とした疾患名を無理矢理当てはめるしかありませんでした。
ゲーム依存やネット依存が正式に病名として認められていなかったため、カウンセリングに保険を適用できないなど、診療上の弊害も大きかったといいます。
樋口医師のもとには、ゲームに耽溺して学校にまったく行かなくなり、日常生活が破綻してしまった中高生が、親に連れられて大勢訪れています。樋口医師が2013年に行なった日本の成人に対する実態調査によると、ネット依存の傾向にある人の数はおよそ421万人。そのうちのほとんどが、ネットゲーム依存だと考えられるとのことです。
特に、ネットゲームがゲームの主流になって以降、ゲーム依存の患者は大幅に増加したといいます。近くさらなる高速回線である5Gの時代が始まるとされており、eスポーツといったゲームの競技化も進んでいます。
その影で、ゲーム依存に陥る人が増えることも予想されるなか、ゲーム障害が疾病として認められたことは、医療モデルによる治療にひとつの道筋を付けるものと言っていいでしょう。
障害ではなくひとつの状態として
ICD-11の日本への導入にあたっては、従来「〇〇障害」と訳されてきたdisorderを、「〇〇症」と訳す変更も進められる見込みです。
たとえば、従来「自閉スペクトラム障害」と言われてきた疾患は、「自閉スペクトラム症」と呼ばれることになっていきます。これは、「障害」という言葉につきまとうスティグマを避けるとともに、欠陥ではなくひとつの状態として、社会の側も様々な特性を持った人に対し、偏見を持たずに接することを求めているものでもあると言えるでしょう。
ICD-11は、2022年1月1日に正式に発効し、世界の医療現場で使用されることになっています。
しかし、日々変化する精神医療の世界では、また新たな概念が生まれたり、障害と健常の境目が社会の変化により移り変わったりして、さらなる議論が続いていくことでしょう。