はじめに
MANGAは世界の共通言語
御子柴さんはもともと楽天に勤め、広告営業で全国1位の成績を取ったこともある敏腕営業マンだったそう。なぜこのようなホテルを作ろうと思ったのでしょうか。
「自分も漫画から多くのことを学んだ」という御子柴さん
旅行が好きで、民泊仲介サイトなどと使い、世界約50都市を泊まり歩いたという御子柴さん。ところが、現地で出会った人々とたくさん会話をしたくても、共通のテーマに乏しく、すぐに話が終わってしまう。でも、アニメの話なら盛り上がることがありました。
楽天を退職後、自身の経験を生かしてホテルやドミトリーの運営代行の会社を起業。このノウハウを生かし、新しい直営ホテルのコンセプトを考えた時、浮かんだのが、日本が世界に誇る文化である“マンガ”でした。
「マンガを共通言語にして新しいホテルを作ろうと思った。マンガは人と人をつなぐメディア、コミュニティになる」(御子柴さん)
フロアのすべてのマンガには日本語と英語で「おすすめコメント」を書き、手に取ってもらう時のヒントにしました。また、作品を熟知したスタッフを配置し、「泣けるマンガが読みたい」「わくわくする歴史ものが読みたい」などとリクエストすると、お勧めの作品を教えてくれます。
スマホを置いて漫画の世界へ
オープン後、稼働率はほぼ100%を保っているそう。口コミで国内外のマンガ好きが訪れるといい、男女ともに約35%が海外からのインバウンド客です。
旅行中のロシア人女性は、日本語がまったく読めないのに、「絵がすごくきれいなので、ぜひ持って帰りたい」と、「冒険エレキテ島」(鶴田謙二、KCデラックス)という作品を購入。東京観光中の1週間宿泊し、毎晩頑張って日本語版のマンガを読む人もいたといいます。
日本人では出張や旅行のついでにマンガを読みに来る人のほか、都内に住んでいるのにわざわざ泊まりに来る人もいるそうです。30~40歳代が最も多く、中には70歳代のマンガファンが泊まりに来たことも。スタッフにもマンガ好きをそろえ、お客さんと談義が弾みます。
テラスに出て漫画を読むこともできる
御子柴さんは「自分たちが提案するのは、“漫泊”という新しい宿泊体験です。商標登録もしました。電子書籍が主流になりつつある今こそ、スマホを置いて、長編や絵の美しい紙の作品に没頭してほしい」と話します。お客さんの反応を見ながら作品は定期的に入れ替え、蔵書を充実させているそうです。
価格は閑散期の平日で3,000円程度、繁忙期や週末で5,000円前後。一般的なカプセルホテルよりはちょっと高めですが、約2割はリピーターだそう。そういえば最近漫画を読んでないな、と感じたら、夏休みに一度体験してみる価値はありそうです。