はじめに

豪ドルの動きは市場の“リトマス試験紙”

相場の反転は突然やって来る場合もありますが、相応の予兆があるのが一般的です。やや感覚的であるかもしれませんが、悪材料に対する耐性が高まっていることが確認できれば、反転の時が近づいているとみてよいでしょう。なお、為替市場全体を見渡した場合、注目すべき通貨として、対円で大きく下落した「豪ドル」を挙げておきたいと思います。

オーストラリアの場合、このところ貿易黒字が過去最大規模に膨れ上がっており、実需の資金フローは明らかに豪ドル高を支持していると考えられます。また、日本のアサヒグループホールディングスによる現地企業の大型買収事案(160億豪ドル規模)もあり、今後さらに実需の豪ドル買い圧力が強まることは目に見えています。

豪ドルは最も反発が期待される通貨と考えられ、為替市場の潮目の変化を探るうえで格好のバロメーターではないでしょうか。

これまで、主に同国の金利先安観や中国の景気悪化懸念が豪ドル売りを支援してきましたが、こうした材料に対する反応が鈍くなり始めれば、反転に向けた下地が整ったと考えてもよさそうです。8月中旬になり、そうした雰囲気が幾分感じられつつあります。

米中貿易摩擦の新たな休戦は11月?

一方、反転に向けた下地が整ったとしても、何らかのきっかけや手掛かりがなければ、不発に終わることも十分想定されます。市場が抱えるリスクの中で“本丸”は、やはり米中貿易戦争といえそうです。

なかなか落としどころが見えないものの、両国ともいつまでも引っ張りたくないのが本音でしょう。特に、米国のトランプ氏は来年の大統領選を意識した場合、年内に何らかの決着をつけたいはずです。

多少、楽観的かもしれませんが、11月中旬にチリで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせ、両国首脳会談がセットされ、新たな“休戦協定”が結ばれる可能性は高いとみられます。大統領選までの日程を考えた場合、トランプ氏はこれまでのように合意を簡単にちゃぶ台返しはできないでしょう。

このシナリオが正しければ、円は前述の対豪ドルのみならず、多くの通貨に対して相応の下落(円安)余地があるとみられます。

<文:投資情報部 シニア為替ストラテジスト 石月幸雄>

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