はじめに

スタジアムに施したベイスターズ流改革

赤字からの脱却を図りたい川崎ですが、社員削減や設備のコストダウンなど安易な道は選んでいません。クラブの社員数は約30人、Bリーグでは最大級の規模です。「3年後の黒字を目指すには、やることが多いので。逆にもう増やせないよとは言われました」と元沢社長は話します。

設備にも大枚をはたいています。会場の壁を覆うブレイブレッドの布は2000万円、照明などのホワイエ装飾は1000万円、ハングモニターには5000万円がかかっています。

「どうしても市民体育館の匂いと言うか、雰囲気が抜けない。お客さんがゲームに入りきれない」と、専用アリーナではない試合会場の問題点を認識した元沢社長。「費用対効果が絶対出るかはわからない」と考えながらも、自分の責任で巨額の投資を決断しました。

「試合のアリーナに入った時の非日常感を大事にしています。お客さんは2時間半~3時間は会場にいますので、その間にいかに楽しませるか」。エキサイティングバスケットパーク計画と銘打たれたプランの下、会場の改善に始まり、さまざまな趣向を凝らしたイベント、かける音楽も厳選し、チアリーダー、グッズ、飲食物まで、こだわりにこだわって変えていきました。

そのこだわりの1つがビール。ベイスターズにいた時に、プロスポーツ観戦におけるビールの重要性を痛感したといいます。2ヵ月以上にわたる醸造所探しに始まり、保健衛生上の問題で生ビールを出すことはできなかった試合会場に、手洗い所まで新設して販売にこぎつけました。

販売方法にもこだわり、横浜スタジアムのエース売り子というグループ企業が持つ“最高のリソース”も投入。その試合では1杯650円のクラフトビールが1,000杯近く売れたといいます。「古巣の使えるものは、なんでも使わせてもらいます」とベイスターズ時代に培った知識も経験も人脈も、総動員しています。

知名度向上へフロンターレ流どぶ板営業

次々と打つ手が当たり、昨季は大きな盛り上がりを見せたブレイブサンダース。しかしチームには、ある数字が大きな危機感としてのしかかっていました。

「1年前にwebでアンケートをしたら、25%の人しかブレイブサンダースの存在を知らなかった。8割近くが知らないということです」と元沢社長。ちなみに、川崎市にある武蔵小杉駅周辺で、試しにアンケートを行ったところ、知っていると回答した人は100人中15人しかいませんでした。

認知率約2割。ちなみに川崎市で横浜DeNAベイスターズと、Jリーグ・川崎フロンターレの認知度を聞くと8~9割が知っていると回答するといいます。

まずは多く人に知ってもらわないと始まらない。そのため、ブレイブサンダースには、Bリーグではかなり多い、4人の広報スタッフがいます。そして取っている手法は、目指すべき手本ともなっているベイスターズとフロンターレのハイブリッド。前者が得意とするマスマーケティングで大きな露出を狙いつつ、後者が実践してきた地域密着のやり取りを並行しているのです。

元沢社長
川崎ブレイブサンダースを率いる元沢社長

「どんなに多く見積もっても横浜DeNAベイスターズの10分の1もない」と元沢社長が話すほど少ないマーケティング予算を有効に使い、ユニホームお披露目式を、なんとライブハウスでもある「クラブチッタ」で、ファン400人を招待して大々的に行いました。

多くのメディアにも取材されて知名度も上がると同時に、その場で販売されたレプリカユニホームの売り上げは予想を大幅に超え、大成功となりました。またプロ野球では恒例となっている必勝祈願も川崎大師で行うなどして、シーズン前からマスメディアへの露出に成功しています。

一方で、地元との強い結びつきを武器にしているフロンターレにも学び、元沢社長は地域の会合などには積極的に顔を出します。社員も若手同士の交流会など、地元企業の集まりがあれば参加しているといいます。先輩スポーツクラブの良いところは、貪欲に取り入れて改善の歩みを進めています。

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