はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する野瀬大樹氏がお答えします。

父の代から、クリーニング店向けに設備やサービスを販売する自営業を営んでいます。以前、テレビかマンガで、税理士が中小企業の社長に向かって「利益が出ているなら、社用車として高い外車を買いなさい」とアドバイスをしているのを見たことがあります。私は少し利益が出ているものの、そんなアドバイスを税理士から受けたことはありません。こういったアドバイスは、よくあるものなのでしょうか。
(30代後半 既婚・子供2人 男性)


野瀬: これは……立場上、答えにくいご質問ですね。

「利益が出ているから、高級車を買う」ということはマンガの世界では節税方法としてよく聞くのですが、原則的で教科書的な答え方をしますと、その効果は疑問です。

まず経費として認められない可能性が残ります。仮に認められたとしても、それが会社にとってどうしても必要なものではない以上、経営のプラスにはなりません。

簡単にご説明しますと、所得税は「(収入-経費)×税率」という公式で計算することになります。そのため、この経費を大きくすることができたら税金は小さくなりますが、当然この経費は「業務に必要だったもの」に限られ、プライベートな支出を含めることはできません。

言い換えると、「高級車が業務に必要であること」を説明できないと、原則として経費に加えることはできないのです。

経費で処理するなら常識の範囲内で

質問者の方の場合、クリーニング店向けに設備やサービスを提供している……ということですので、普通のバンであれば業務に必要と言えます。

しかし、高級車……例えば、フェラーリやポルシェである必要性はありません。ですから、高級外車を買って経費にすることは、税務署に認められない可能性があります。

そういえば以前、会社の経費で高級外車をバンバンと買っていた社長が、税務署から指摘を受け、追加で税金を納めていました。「会社にとって必要」とアピールするために、それらの車に会社のロゴまで入れていたそうですが、実態はプライベートだけに使っていたので「悪質だ」と判断されたようです。

ただし、これは社長が通勤車として高級車を利用することまでを妨げるものではありません。高級車といっても、レクサスやベンツ程度の常識の範囲内であれば、経費として処理することは十分可能だと思います。

結論といたしましては、「ポルシェ、フェラーリなどの車は明らかに仕事に必要ないのでアウト。レクサス、ベンツなどは社長の通勤用として可能」となります。

大切なのは会社にとって必要かどうか

では、利益が出そうであれば、「レクサスやベンツを買って、ガンガン節税すべきか?」といえば、私はそうは思いません。

確かに、社長の通勤車を家庭用のバンからベンツにすれば、当然経費は膨らむので税金は小さくなるでしょう。しかし、当然ベンツはバンより高いので、その分、会社はたくさんのお金を払っているはずです。そうなると会社にとっては結局、不必要な買い物をしていることになるわけです。

会社にとって「どうしても必要なもの」「どうせ買うもの」であれば、買って経費にすれば節税になるかもしれませんが、「節税のためにほしくもないベンツを買う」というのは明らかに無駄遣いだと言えます。

もし利益がたくさん出そうで、節税を考えているのであれば「(1)どうせ買うもの」「(2)買うことで業務効率が上がるもの」「(3)買うことで従業員のモチベーションが上がるもの」を買った方がいいでしょう。こういった支出であれば、会社にとってもマイナスにはならないはずです。

具体的には以下のようなものです。

(1)どうせする予定だった社屋のリフォームを早めにする
(2)より多くの商品を運べる大きなバンに乗り換える
(3)従業員のパソコンを最新モデルに変える

節税ばかり追うことで会社がムダなものまで買ってしまい、会社の資金繰りを悪くしてしまうようなことは避けたいですね。

個人的な経験からも、「社長! 節税のために我が社の製品を買いませんか?」という言葉で近づく営業はロクでもないことの方が多いです。社長が「節税」という言葉に弱いことをわかっているのでしょうね。

決算が近づくと、この手の営業が多いと思いますので「本当に会社にとって必要か」という視点を常に持ちたいですね。

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