はじめに

「若者の旅行離れ」がインバウンドより影響?

星野リゾートは2017年1月にインドネシア・バリ島ウブドに「星のやバリ」、2019年6月に台湾・台中に「星のやグーグァン」を開業するなど、近年は海外展開に意欲的に取り組んでいます。

こうした積極的な海外進出をする背景の1つにあるのが、日本国内の旅行消費額減少に対する不安です。星野代表が社内向けに「日本観光の不都合な真実」として、アル・ゴアのドキュメンタリー映画をもじったタイトルで説明しているのが、以下のような内容だといいます。

日本観光の不都合な真実

訪日外国人による2018年の旅行消費額は4.5兆円と、増加傾向にあります。しかし、日本人による国内旅行などを含む全体の旅行消費額を見ると、2017年から2018年は26.7兆円から26.1兆円に減少。インバウンドだけに注目すると旅行消費額は伸びているように見えますが、実は全体では減少しているのです。

特に20代の旅行参加率の減少が要因として大きく、人口減少だけの影響ではないと星野代表は考えています。「全体の80%が日本人による国内観光。それがちょっと減少するだけで、インバウンドの成長の部分を吹き飛ばすほど。次の旅行世代を背負う20〜30代に、国内旅行に参加していただくのが、インバウンドと同じように大事」と、その重要性を説明します。

国内の旅行消費額が減少する中、星野リゾートとしては日本のマーケットだけに依存することはリスク。「USドルでもユーロでも稼げる運営会社になっていきたい。運営会社としてのサステナビリティにつながる」というのが、海外進出をする背景の1つのようです。

「国内で展開していくほうが楽ですし、収益率も高いかもしれませんが、そういう時期に海外に積極的に出ていかないと、本当に必要になった時に始めるのでは遅い。国内市場がまだ大きく余裕があるうちに、海外で運営技術をつけたい」(星野代表)

35歳以下は均一料金の新ブランド立ち上げ

もちろん、若者の国内旅行離れに対して、まったく策を講じていないわけではありません。星野リゾートは、若い世代を対象にした新ブランド「BEB(ベブ)」を今年2月に立ち上げています。コンセプトは「居酒屋以上 旅未満 仲間とルーズに過ごせるホテル」。旅行に対する心理的ハードルを少しでも低くしようと、持ち込み自由で、パブリックスペースは24時間オープン。チェックアウトの時間は11時です。

また、現在のホテル業界では需要に応じて価格が変動する「ダイナミックプライシング」が主流ですが、BEBでは35歳以下限定で、時期や曜日による変動のない、均一料金制の「エコひいきプラン」を用意しています。ダイナミックプライシングによる価格のわかりにくさが、20~30代の旅行離れにつながっていると考えたからです。

実際のところ、2019年2月に開業した「BEB5 軽井沢」では、7割が同プランを利用しているそうです。2020年3月19日には、茨城県土浦市の駅ビル「プレイアトレ土浦」内に「BEB5 土浦」が開業する予定。価格帯を低めに設定したBEBをきっかけに、20代に星野リゾートを知りファンになってもらう狙いもあります。

海外進出と国内の需要創出、それぞれのアプローチでさらなる成長を狙う星野リゾート。積極策が実を結ぶか否かは、2020年に明らかになりそうです。

この記事の感想を教えてください。