はじめに
信用スコアが導く「サービス化」
中国でモバイル決済が普及した背景に、個人の信用スコアがあります。前述したように、アリババはアリペイの決済情報をもとに利用者の与信を管理する信用スコアサービス「芝麻信用」を提供。テンセントも同様に「騰訊征信(テンセントクレジット)」を展開しています。
信用スコアが高いと、シェアサービスの保証金が免除されたり、出国手続きが一部簡素化されたりするメリットがあります。もともとは、政府が個人に信用レベルを意識させることで不正取引を減らし、健全な社会システムを目指すことが目的でしたが、最近の中国では「信用を築き、良いサービスをすれば、ビジネスチャンスにつながる」との認識に変わってきています。
たとえば、筆者が5月に中国で訪れた四川風鍋料理レストラン「海底撈火鍋(ハイディラオ)」では、美味しい鍋料理にとどまらず、笑顔の接客や麺打ちのパフォーマンス、子供へのおもちゃのプレゼント、待ち時間に提供するネイルアートやマッサージチェアなど、いかにお客様に楽しんでもらえるか、随所に工夫が施されていました。
レストランは満席状態で、こうした運営スタイルが歓迎されていることを体感しました。中国でも物質的欲望を満たす段階から、サービスを受ける心地良さを求める段階に入ってきたといえるでしょう。
日本特有と思われた「おもてなし」が中国で受け入れられ、広がってきており、今後サービスによる差別化が企業業績に大きく影響を与える段階に入っていくと思われます。
2019年は50%超の拡大予想
今後のフィンテック市場で成長期待が高い分野として、インターネット経由の預金・貸し出しが挙げられるでしょう。2019年は50%超、2017~2023年の7年間でならしても30%超の伸び率で拡大すると予想されています。
中国ではこれまで、伝統的な金融機関の貸し出し先が大手企業や国有企業に限定されていたため、消費者や中小零細企業向けのサービスが不足していました。しかし、電子商取引などで購入履歴や商品の返品率など膨大な量のデータが蓄積されたことにより、コストを抑えながら貸し手と借り手をうまくマッチングできるようになってきています。
新しい分野のサービス産業には、守るべき既得権益がなく、低い参入障壁の下で新規参入が相次ぐため、市場の拡大余地は大きいと考えられるでしょう。
インターネット金融はビッグデータやクラウド、人工知能(AI)、ブロックチェーンなど新しい技術を利用した信用調査やスマート投資コンサルタント、保険へと広がっていく見通しです。
一例として、アリババ・グループ・ホールディング、テンセント、中国平安保険(集団)が共同出資する「衆安保険(ZhongAn)」が注目されます。同社は電子商取引(EC)サイトの損害保険に加え、旅行保険や医療保険、消費者金融を扱っています。中でも、医療保険はこれまでの中国になかった画期的な金融サービスです。
中国では公的な医療保険がないため、これまでは病気や入院時に非常に高いコストがかかっていましたが、同社はECや旅行保険など大量のデータを元にリスク分析するノウハウを利用し、安価な医療保険を展開しています。