はじめに
それでも家を出ていった夫
本当は悩みに悩んだと彼女は言います。でも夫と過ごした15年近い日々を考えると、どうしても別れる気にはなれなかったそう。そうやってふたりで決意を確かめ合ったはずなのに、夫は1ヶ月後、彼女に泣きながら頭を下げました。離婚してほしい、と。
「毎日、彼女と会社で顔を合わせているとつらくてたまらない。どうしても好きなんだ、あきらめきれないって」
裏切られた側が、何とかがんばってやり直そうとしているのに、再度裏切られた形になりました。彼女の絶望感は察してあまりあります。
「その後、私は精神的におかしくなって病院でウツと診断されました。全身にじんましんが出て脱毛症にもなって……。精神科でもらう薬を一気飲みして何度も病院に運ばれました。何度かそんなことを繰り返して、とうとう夫と激しい言い合いになったんです」
言い合いの最中、彼女は激してきて、「あなたには人の痛みがわからない」がわからないと責め立てました。
「夫の目の前で、私、ペーパーナイフを自分の手の甲に突き刺したんです。激しい出血に夫は右往左往していました。『痛みってこういうことなのよ。目の前で見ればわかるでしょ。血が流れるの。私の心もこうやって血を流しているのよ』と私は叫び続けました」
それでも夫は家を出ていきました。荷物も何も持たずに……。
「私はどうすればよかったのか。どうすれば彼をひきとめることができたのか。もう、私には何もわかりませんでした。どこかで死ぬしかない。両親と娘に遺書を書き、家を出ました」
絶望感にさいなまれていました。夫が不倫をしたのは夫の都合です。妻である彼女は何も悪くなかったのです。それなのに、事態は悪化していく一方でした。