はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する野瀬大樹氏がお答えします。
私は現在、35歳独身ですが、まだ結婚を諦めていません。税制上は、結婚していたり、子供がいたりするほうが控除などのメリットが多いと思うのですが、もし結婚して子供を育てるのであれば、早く結婚したほうが得なのでしょうか? 私は両親が25歳のときの子供ですが、25歳で結婚して子供を育てるのと、40歳で結婚して子供を育てるのでは、金銭的にどのくらい差が出るものでしょうか?
(30代後半 独身 男性)
野瀬: 確かに、質問者の方がおっしゃるように、結婚して、かつ、子供がいれば控除を受けることができます。しかし、その経済的な効果は決して大きくありません。
今回は結婚して奥様と5歳と6歳の2人のお子様がいた場合で考えてみましょう。
結婚による税務上のメリットは?
日本は累進課税という「たくさん稼いだ人のほうが税率が高い」という制度を適用しています。そのため、税率は人によりさまざまですが、ここでは所得税10%、および住民税10%で効果を考えてみましょう。
配偶者控除額は所得税で年間38万円、住民税で年間33万円です。数字だけでみると影響が大きい気がしますが、実際にお得になるのは、税率分だけです。つまり「38万円×10%+33万円×10%」なので、年間7万1,000円程度です。
また、お子さんが扶養控除の対象になるのも16歳からですので、上記条件では税制上の特典はありません。そして、お子さんが就職し、収入を得るようになると、扶養控除の対象ではなくなります。いつ結婚しても、もらえる期間が決まっているので、扶養控除について「どちらが得」というものはありません。
これは支出面の養育費でも同じです。いつ結婚して子供を授かっても、どの道、必要になる費用なのでこちらも考慮しません。
結論として、早く結婚することによる税務上のメリットは。「7万1,000円/年」の税務上の恩恵を、その分早く受けられることになります。ただ、その恩恵も奥様がフルタイムで働く場合はありませんので、女性の社会進出が進んだ今の世の中では税務上の恩恵はあまりないのかもしれませんね。
結婚することで本当に得になるのは?
税務上の恩恵があまりない……となると少し悲しいのですが、私自身、結婚によって生じる経済的恩恵で最も大きいものは、「生活費の圧縮」だと思っています。
最近はあまり大型合併の話は聞きませんが、企業同士が合併するM&Aが行われれば、通常その企業のコストは下がります。なぜなら、今まで2つの会社が持っていた、2つの経理部、2つの人事部などの間接部門が1つで済むようになるからです。これは人間同士のM&Aともいえる、結婚にも通じることです。
現在、お互いが家賃7万円のワンルームマンションに住んでいる場合、結婚して一緒に住むと家賃は単純に2倍にならないと思います。せいぜい12万円。上手く節約すれば10万円程度の1LDKになるのではないでしょうか。これだけで「(7万円+7万円)-10万円=4万円」の節約になります。
また、一人暮らしで外食中心だった生活が自炊になれば、それだけで家計の節約になるはずです。週に3日外食し、毎回平均1,500円程度を払っていたのであれば、「1,500円×3回/週×4週間×2人=3万6,000円」の節約になります。
今まで離れて住んでいた2人が一緒に住むようになるので、デート代や携帯電話の通話料も要らなくなるでしょう。毎週映画を見たり、近場で観光したり、食事をしたりして合計1万5,000円/週。
つまり、月2人で6万円程度使っていたデート代なども不要になります。週に一度は夫婦で外食をしたとしても、1回1万円で月換算すれば4万円程度でしょう。「6万円-4万円」で、2万円程度は節約できるはずです。
細かいことをいえば、今までお互いが個々に払っていた水道光熱費の基本料金・インターネット・固定電話・NHK受信料……これらがすべて1つで済むようになるのです。もちろん水道光熱費などは使用料が増えるかもしれませんが、トータルで支出が減るのは間違いないと思います。これらは小さく見積もっても4,000円にはなるでしょう。
そう考えると、トータルで下記のような節約が可能になります。
家賃節約:4万円/月
食費節約:3.6万円/月
交際費節約:2万円/月
その他節約:0.4万円/月
合計:10万円/月
1年で換算すれば、120万円の節約です。先ほどの税制面と比較すると、かなり大きな節約といえます。この恩恵は、早く結婚すればするほど早く始まることになります。
新婚の方は幸せも相まって、独身時代の支出×2で新婚時代の支出を考えがちです。しかし、それでは前述のようなM&Aによるコスト削減効果を得ることはできないのです。気持ちが盛り上がって財布のヒモが緩くなるのは理解できますが、ここはM&Aと割り切って効果的な節約の機会を活かしましょう。
結婚が不動産に似ている理由は…
以上、2つの経済的メリットを反映してエクセルで試算しました。
一応、結婚2年目で子供を1人授かったと想定して試算すると、早く結婚した方が1,900万円程度、経済的にはお得という結果になりました。
私は持論として「この人しかいない!」「私はこの人と結婚したい!」という人がいるのであれば、ダラダラ付き合うより結婚した方が経済的恩恵が大きいのでよいと思っています。
もし結婚のハードルが高いようでも一緒に住んでさえしまえば、M&Aによる生活費の圧縮という恩恵は受けられるので、早く一緒に住むことをおすすめします。
そう考えると、結婚というものは不動産と似ていると思います。よく「家は買うべきですか? 借りるべきですか?」という質問を受けるのですが、家を買っても損にならないケースの1つとして、「もうその家から引っ越す可能性がない」というものがあります。
そうであれば、将来の売却という出口戦略は意識することなく、自分好みに家をアレンジできるし、今現在の異常ともいえる低い住宅ローン金利と住宅ローン減税の恩恵を受けられるからです。
「これしかない!」と思ったら決断すべきという点で、「結婚」と「不動産」は似ているような気がするのです。