はじめに
米国のみならず、世界の経済や投資環境に大きく影響する一大イベントまで、残り1年を切りました。米国の大統領選挙のことです。
共和党の現職であるドナルド・トランプ大統領に対して、民主党ではオバマ政権で副大統領を務めたジョー・バイデン氏、ベテラン上院議員で国民皆保険制度と富裕層大幅増税、環境投資などを公約に掲げているエリザベス・ウォーレン氏、社会主義者を自称するバーニー・サンダース氏などが有力候補となっています。
そして、ここにきて支持率を急速に上げているのが、37歳のピート・ブティジェッジ氏です。民主党の予備選挙が最初に行われるアイオワ州では、世論調査で突如として支持率トップに躍り出ました。
この大統領選の“新星”はどんな理念を持ち、どんな政策を掲げているのでしょうか。そして、もし彼が大統領に選ばれたとしたら、株式市場や日本経済にはどのような影響が考えられるのでしょうか。
華麗なキャリアを誇るマルチリンガル
ブティジェッジ氏は29歳の若さでインディアナ州のサウスベンド市長に就任しました。ハーバード大学、オックスフォード大学の学位を持ち、大手コンサルタント会社のマッキンゼーに勤務していたエリートでもあります。
このほかにも、アフガニスタン戦争への従軍経験もあり、フランス、スペイン、イタリア語に加え、ノルウェー語やアラビア語も操るマルチリンガルでもあります。
また、同性愛者であることを公表しており、男性パートナーとともに遊説を行っています。ブティジェッジ氏の公約は総じて具体論に欠けるものの、住宅補助の拡充、子育て支援、医療費の引き下げなどを推し進めるとしており、典型的な穏健中道左派の民主党候補であるといえます。
なぜ有力候補に躍り出たのか
民主党の有力候補は、それぞれ弱点を抱えています。
バラク・オバマ前大統領は11月15日の民主党集会で「この国はまだ、革命よりも改善を求めている」と発言しました。これは、オバマ氏が導入した医療制度、通称「オバマケア」を廃止して、国民皆保険制度(通称「メディケアフォーオール」)を導入しようとしているウォーレン氏、サンダース氏を暗に支持しないというメッセージであるといわれています。
現在でも民主党支持者の間でオバマ氏の人気は絶大で、この発言の後、11月26日に行われた世論調査ではウォーレン氏の支持率は28%から14%に半減してしまいました。また、サンダース氏は11月に心筋梗塞を起こして入院するなど、健康問題が浮上しています。
中道派のもう1人の有力候補であるバイデン氏も、問題を抱えています。同氏の息子はウクライナの天然ガス会社で取締役を務めていましたが、その会社は過去に汚職の疑惑でウクライナ当局から捜査を受けたことがあります。現在、米下院で開かれている弾劾公聴会はトランプ大統領がこの捜査に圧力をかけたという疑惑によるものです。
バイデン氏の息子は身の潔白を主張しており、汚職に関与した証拠も出てきていません。しかし、一連の騒ぎでトランプ氏のみならず、これまでクリーンなイメージを誇っていたバイデン氏にも傷がついたともいわれています。また、バイデン氏は就任時に78歳となる年齢もネックとなっています。
<写真:ロイター/アフロ>