はじめに

妻の年収は?

ところで、昔から妻が働く場合、いくつかの「壁」の存在が言われてきました。税金や社会保険上の問題から、一定の収入を越えると手取り額が減ってしまうためです。例えば、「103万円の壁」や「150万円の壁」などが言われてきましたが*2、これらに注目しながら、妻の年収を見ていきたいと思います。

なお、「配偶者控除」も「配偶者特別控除」も配偶者の所得1,000万円以下が対象。このほか、一定の条件を満たす企業等で働く場合は社会保険料を納める必要が生じる「106万円の壁」や、条件を満たさない企業等でも国民年金や国民健康保険等に加入する必要が生じる「130万円の壁」もあります。

共働き世帯の妻の年収は、150万円未満が過半数で、夫の配偶者控除を意識して「壁」を超えずにパートタイムで働く妻のようです(図表5)。

一方、残り半数弱の「150万円の壁」を越えて働く妻の内訳は、年収300万円未満と年収300~700万円未満がそれぞれ2割程度で、年収700万円以上のパワーカップル妻は3%弱となっています。

図表4のパートタイムで働く妻の割合(57.9%)と比べて、図表5の年収150万円未満の割合(50.2%)は、やや少なくなっています。これは、労働時間は35時間未満には、正社員の時間短縮勤務で比較的年収が高い女性も含まれるためでしょう。

なお、過去をさかのぼっても、妻の労働時間(パートタイムとフルタイムの別)の分布は、さほど変化がありませんでした。一方で、年収で見ると150万円未満が少しずつ減っています(2013年54.6%→2018年50.2%、▲4.4%pt)。企業の制度環境の整備が進み、時間短縮勤務などを活用して、「壁」を越えて働く女性が少しずつ増えているようです。

表5

夫の年収との関係は?

妻の働き方は、夫の年収とも密接な関わりがあります。最後に、共働き世帯の夫の年収の状況を見ていきましょう。

夫の年収別に妻の労働時間を見ると、300万円以上では、高年収であるほど、パートタイムで働く妻は増えます(図表6)。夫の収入が十分にあれば、妻は必ずしも高い収入を得る必要がないとも考えられます。または、夫が忙しいため、妻は家事・育児をするためにフルタイムでは働きにくいのかもしれません。

なお、年収300万円未満では、パートタイムで働く妻が比較的多いですが、これは高齢夫婦が多いためでしょう。

一方、夫婦の年収の関係を見ると、興味深い事実が見えます。夫が高年収であるほど、必ずしも年収150万円未満の妻が増えるわけではありません(図表7)。

夫の年収が300万円以上では、図表6のパートタイムの妻の割合に対して、妻の年収が150万円未満の割合が低い傾向があり、両者の差は夫の年収が高いほど広がっていきます。これは、前にも触れましたが、パートタイムには時短勤務の正社員も含まれるためです。夫が高年収であるほど、パートタイムと言っても、時短勤務の正社員の妻が増えるのでしょう。

また、「150万円の壁」を越えて働く妻を見ると、夫が高年収であるほど、高年収層が増える傾向があります。例えば、年収700万円以上の妻の割合は、夫の年収300~499万円未満で0.8%、500~699万円未満で1.5%、700~999万円未満で5.3%、1000万円以上で13.3%となっています。夫婦の年収は比例関係にもあるようです。

一方で、夫が高年収であるほど、専業主婦の妻が増える傾向もあります(総務省「労働力調査」)。つまり、夫が高年収であるほど、夫の高い経済力から専業主婦は増えるものの、共働きの場合は高年収の妻が増える傾向もあるのです。

*2 年収103万円を越えると所得税を納める必要が生じる。また、年収103万円未満であれば、その配偶者は満額38万円の所得控除が受けられるが(「配偶者控除」)、103万円を越えると「配偶者特別控除」へと切り替わる。150万円までは「配偶者控除」と同様、満額の控除が受けられるが、150万円を越えると年収に応じて控除額が減額され、201.6万円で0となる。以前は103万円超で控除額が減額されたが、2018年より150万円へと引き上げられた。

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