はじめに
5G(第5世代移動通信)の商用化が始まり、今までにない革新的なサービスや体験への期待が高まっています。こうした中、自動運転やコネクテッドカー、遠隔医療などとともに注目を集めているのが「空飛ぶクルマ」です。
これはドローンを人が乗れるくらい大きくした乗り物で、垂直離着陸ができ、滑走路も操縦士も不要で、自動車のように気軽に移動できることを目指しています。交通渋滞とは無縁であり、道路が整備されていない地域でも自由に移動ができるため「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)革命」の一端を担う乗り物として期待されています。
ウーバーなど欧米勢が開発で先行
「空飛ぶクルマ」の開発は欧米が先行しています。米国ではウーバーテクノロジーズ、キティホーク、Joby aviation(トヨタ自動車も出資)などがしのぎを削っているほか、欧州では仏エアバス、ドイツのリリウムなどが積極的に開発を進めています。中でも積極的なのが、配車最大手の米ウーバーです。
同社は米NASA出身の研究者を複数雇い、「空飛ぶクルマ」の実用化を急いでいます。シェア自転車、電動キックボード、車のライドシェアなどとともに、「空飛ぶクルマ」を使った空のライドシェアをMaaS(スマートフォンを使った移動手段の包括サービスのこと)として提供するためです。
ウーバーは「空飛ぶクルマ」の実用化時期を2023年としており、2020年に米国のダラスとロサンゼルス、そして、オーストラリアのメルボルンで実証実験を始める予定です。
同社は1月7日から10日まで米ラスベガスで開催された世界最大のIT家電見本市「CES 2020」直前の6日に、空飛ぶタクシーの開発で韓国の現代自動車と提携すると発表しました。ウーバーはすでに米ヘリコプター大手のベル社や新興企業と提携していますが、現代自動車が開発中の「空飛ぶクルマ」は都市部での利用を想定し、安全性が高く、低騒音であることが評価されたようです。
日本でも官民協議会が発足
日本については経済産業省と国土交通省が旗振り役となり、2018年12月に「“空飛ぶクルマ”実現に向けたロードマップ」を取りまとめています。
まず、2023年に宅配など「物の移動」からスタートし、航空法など法制度の見直しや、機体や技術開発の進展に合わせ、「地方での人の移動」を2020年代後半にサポートし、そして都市での人の移動も2030年代には始めるという目標を掲げています。
ロードマップ作成に合わせて設立された官民協議会には、国内の航空会社や重機メーカー、情報・IT大手に加え、海外航空機メーカー、そしてウーバー・ジャパンも参画しています。
具体的な動きとしては、会員企業の1社であるNECが2019年8月に自社開発した4ローター式「空飛ぶクルマ」の試作機の浮上に成功しました。
また、「空飛ぶクルマ」による聖火点灯を目標に掲げる、大手メーカーが出資する有志団体カーティベーター(「CAR<車>」+「CULTIVATOR<開拓者>」の造語)が母体のベンチャー企業であるスカイドライブが、ベンチャーキャピタルや自治体から15億円を調達し試作機を製作しました。同社は2020年夏に有人試験飛行を公開し、2023年には機体販売を始めることを目標としているようです。
潜在市場規模は250兆円超の予想も
「空飛ぶクルマ」はMaaSを担う乗り物として、急成長が予想されています。最終的な世界市場規模は、機体とサービス合計で約250兆円に達するという予想もあります。
これから実機を用いた実証実験が始まるため、本格的な市場の立ち上がりは早くて2020年代半ば以降となりますが、息の長い株式の投資テーマとして注目できそうです。
関連銘柄としては、カーティベーターに出資するトヨタ自動車やデンソーに注目です。また、ホンダジェットを生んだホンダも、電動航空機の開発に本腰を入れ始めています。
部品や材料については、東芝、日立製作所、日本電産(モーター)、パナソニックやジーエス・ユアサ コーポレーション(リチウム2次電池)、東レや帝人(炭素繊維)、村田製作所やTDK(各種センサー)などに注目です。
<文:投資調査部 斎藤和嘉 画像:「“空飛ぶクルマ”実現に向けたロードマップ」(経済産業省)https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181220007/20181220007.html を加工して作成>