はじめに
前編で、官民ITS構想・ロードマップをもとに、道路交通課題に対するソリューションの1つとしての自動運転の意義について述べました。
高齢ドライバーによる交通事故のニュースを受け、免許返納を考えなければと思いつつ、返納後の移動手段の確保や生活を考えるとなかなか踏み切れない人も多いようです。親世代や祖父母世代の運転にハラハラしている人も少なくありません。
後編では、「移動にかかわる社会課題へのソリューション」としての自動運転について述べたいと思います。
運転の快適性向上
現在、「自動運転」として広義にとらえられているものは、厳密には「運転支援」と「自動運転」にわけて考えられます。
運転支援とは、たとえば一般には「自動ブレーキ」という名称でいわれる「衝突被害軽減ブレーキ」(現状では必ずしも自動で停止するものではないので、正しくは「自動ブレーキ」との名称を使用するのは不適切とされます)や、車線維持機能(レーン・キープ)、前方車両との車間を保って走行する「追従走行」のようなものです。
これらは責任主体が運転者にあるので、正確には自動運転とはいえませんが、部分的に自動化することで運転者の運転の負荷を大きく下げるとともに安全性を高めます。
特に高速道路での渋滞時にこうした機能の効果を体感している人もいるでしょう。こうした、「運転の快適性向上」は、移動にかかわる社会課題への新手段の提供として注目されています。
高齢者の移動支援
さらに、こうした運転支援の機能は「高齢者の移動支援」において多大な効果を発揮します。実際に、「衝突被害軽減ブレーキ」や「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」が搭載された自家用車は「サポカー(サポートカー)」として、経済産業省などを中心に普及が促進されています。
自動運転車は、高齢者の移動手段として注目されていますが、自家用車に代わる自動運転バスの考案・促進とともに、自家用車自体の安全性向上と運転負荷軽減を図ることで、高齢者の運転寿命自体を伸ばすことも、高齢者の移動手段確保の点で重要なアクションなのです。
2019年に豊島区で発生した高齢者による自動車暴走事故などにより、高齢ドライバーによる運転の安全性確保への関心が高まったことを受け、政府もサポカー購入やペダル踏み間違い時加速抑制装置の後付け装置導入に対する補助金事業を行う方向にあります。
既に東京都では先行してペダル踏み間違い時加速抑制装置の後付け費用の9割を補助(上限10万円/台)しています(ちなみに、当該事故が発生した豊島区では残りの1割を区が負担しています)。
経済産業省の委託で実施した調査によると、4人に1人程度が「身近に運転が心配な人・免許を返納したほうがよいと思う人がいる」としており、「自分の父親」が具体的な対象のトップとなっています(図表)。
1位 | 自分の父親 | 30.8% |
2位 | 祖父母 | 13.7% |
3位 | 自分の母親 | 12.8% |
資料:経済産業省・国土交通省「自動車・自動運転に関するアンケート調査」2019年1月
実際、「父親の運転が心配。でも免許を返納してしまうと父親だけでなく、母親の移動手段もなくなるし、何より運転の楽しみを奪ったら父親が引きこもってしまうのではないか」といった声はあちこちで聞かれます。思い当たる方も多いのではないでしょうか。