はじめに

ロレックス一強だった1980年代

ただ、長く高級時計の売買に携わってきた近藤さんによると、こうした日本でのスポーツウォッチ人気は意外と最近になってのことだと言います。「ノーチラスやロイヤルオークは1970年代に生まれた時計だが、やはり日本人にはずっとロレックスがポピュラーだった」。

精度や堅牢さなど品質に対する信頼性が群を抜いて高いとされ、リセール(転売)時の価格も安定していて資産としても高価値とみなされてきたロレックスは、日本でも石原裕次郎など愛用する有名人が多いこともあり、長く日本で“一強”の時計でした。

ただ、例えばバブル期にはロレックスの中でもまだ、金無垢などドレスウォッチ寄りのモデルが人気を博していたそうです。既に同ブランドの中ではステンレス系のスポーツウォッチも注目を集めていましたが、同タイプの他ブランド商品に人気が波及するほどではなかった、と近藤さんはみています。

近藤誠さん

「1980~90年代までは日本人の(時計に対する)感性がまだちょっと未熟な傾向があったこともあり、ロレックス一強だったのかもしれない」。

人気は2000年代から

一方、2000年代に入って「ブランド(人気)の多様化が起きた。」(近藤さん)。パテックが30周年を迎えたノーチラスのラインアップをリニューアルするなど、こうしたブランド群が“若返り”を図るようになり、徐々に日本の高級時計ファンがロレックス以外のラグジュアリースポーツウォッチにも飛びつくようになりました。

「元をただせばやはり、ロレックスのスチール(ステンレス)モデル人気があったと思う。それらを愛用していた人たちが、さらに上のステージのブランドを求めた際に、(ノーチラスやロイヤルオークなど)これらのモデルは入り込み易かったのだろう」(近藤さん)。これらのブランド側も、もともと持っていたステンレス系のモデルを、ロレックスでスポーツウォッチに目覚めたユーザー向けにモダンに洗練させていった、と近藤さんはみています。

ロレックス GMTマスターII Ref.116710BLNR

富裕層はロレックスより上を買う

加えて、近藤さんは、米国同様、日本も中間所得層が減り、富の二極化が進んでいることが背景にあると指摘します。「お金を持っている人は持っていて、(ロレックスよりさらに高い)パテックやリシャール ミルを買っているようだ」。

ちなみに、新興ブランドであるリシャール ミルはGMTでも1,000万円~数千万円級で売買されるモデルを数多く擁しています。これまでメーカーが発表した中には億クラスも存在する、ロレックス以上に庶民にとっての “高嶺の花”です……。

「時計離れ」とされる世の流れとは裏腹に、意外にも好みのすそ野が広がっているようにも見える日本人の高級時計人気。ただ、近藤さんは「今は(買い手が)資産価値を求めて、ロレックスに人気がむしろ収束してきた気もする」と指摘します。

「このブランドに価値があるのは事実だが、(時計の)個性を出すには他にも楽しいブランドの選択肢がある。コンプリケーション(多機能時計)やビンテージなど、いろんな良い時計に目を向けて、自分の好きな物を買ってみては」。

ただ、定価でロレックスの人気ブランドを買うためたくさんの店舗を訪ねて回る「ロレックスマラソン」という言葉があるほど、投資対象にすらなり得るこうしたブランドの価格動向に注目が集中するのも事実です。後編では、「高級時計の時計はどんな時に変動するのか」について、近藤さんに聞きます。

この記事の感想を教えてください。