はじめに

想定しうる希望的シナリオ

ただ、本当に米国が景気後退に至るかどうかは、コロナウイルスだけではなく、さまざまな要因で判断することが必要です。特に、2016年や2019年同様に、大きく低下している米国の長期金利が同国の経済成長を刺激するでしょう。

そして、FRB(米連邦制度準備理事会)が、株価下落による金融市場の引き締まりを打開するために、緩和政策を柔軟に繰り出す可能性があります。実際に、これまでの適切なFRBの政策対応が、2010年以降の他の先進国よりも高い米国の経済成長をもたらした原動力だったと、筆者は考えています。

仮に、現状程度の株安で済めばFRBが利下げを行うことはないでしょうが、たとえば株価がさらに5%以上下落した場合は、中国経済失速や新型コロナウイルスがもたらす不確実で金融状況がタイトになるのを緩和するため、2019年同様に利下げする展開になるでしょう。

米欧政府はどちらに動く?

一方、財政政策に関しては、米国の議会がいわゆる「ねじれ状況」となっているため、大規模な財政政策が発動されづらい状況です。ただ、新型ウイルス感染拡大という危機状況となれば、議会、政治家の対応が異なってくることも考えられます。

なお、ドイツでは2月26日に新型コロナウイルス対応として緊縮的な財政ルールを大きく緩めることを検討する動きが報じられており、米欧政府の対応が今後望ましい方向に変わる可能性があります。

米国を含めて経済が後退に陥るかどうかは、新型コロナウイルスの感染がどの程度拡大するかよりも、各国の政策当局の金融財政政策が妥当かどうかが重要と考えます。筆者は現状、足元でややオーバーシュート気味に低下している米欧の長期金利低下などが、米国を中心とした世界経済を2020年央から再び上向かせると予想しています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

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