はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する内藤忍氏がお答えします。

富裕層の人たちが日本の銀行に入れていた預金をどんどん海外の銀行口座に移しているという話を聞きます。実際に海外に口座を開く場合は、どの国の銀行がよいのでしょうか? 口座の開き方やリスクなどがあれば教えてください。
(30代後半 未婚 男性)


内藤: 富裕層の人たちが海外に資産を移転させているという話は確かによく聞きます。

しかし、本当に富裕層が大挙して海外逃避をしているのかというと、実際はごく一部の限られた現象といえるでしょう。

海外口座のメリット・デメリット

海外口座のメリットとしては、国内の金融機関が取り扱っていない金融商品にアクセスできる、国内の金融機関に比べてコスト面で優位である、国内の金融機関に比べて利便性が高いといったことが考えられます。

例えばアジアの金融機関は、日本の証券会社があまり取り扱っていない国の株式を商品ラインアップに加えていることがあります。

あるいはアメリカの証券会社を使えば、米国株や米国に上場しているETFの取引コストが下げられる可能性があります。さらに、HSBC、シティといったグローバルに展開する金融機関を使えば、世界各地で現金の出し入れが簡単にできることもあります。

海外不動産の賃料の受取口座として、その国の銀行口座が必要になるケースもあるでしょう。

しかし、よい点ばかりではありません。

デメリットとしては、海外の金融機関の場合は基本的に英語でやり取りをしなければならないことが挙げられます。また、口座の数が増えればその分管理の手間もかかります。

コストが多少低くなっても、手間がかかるのであれば、あまりやる価値はないと言えます。

なんとなくの開設はNG

私自身は海外に不動産などの資産を持っていますが、香港やシンガポールの金融機関の口座開設はしていません。口座を開けるメリットよりも、管理の手間などのデメリットが大きいと考えるからです。アメリカの不動産賃料の受取用に米国の銀行には口座を持っていますが、それ以外はすべて国内の金融機関で完結しています。

最近は国内のネット証券でも、海外の株式や投資信託、ETFなどを直接買うことができるようになっています。

現地の証券会社に比べて、コストが割高になることもありますが、数千万円を超えるような大きな金額にならなければ、少々コストが高くても手間がかからない方がよいと思っています。

英語ができない人が、海外口座の閉鎖をメールで依頼したところ、電話でコンタクトしてほしいと返答されて、対応に窮しているという話を聞いたことがあります。

英語ができなくても海外口座を持つことはできます。平常時は問題ありませんが、なにかトラブルが発生すると時差の関係もあり電話などで対応するには大きな負担がかかります。

海外口座で取引すると節税になると考えている人もいますが、日本国内の居住者の場合、海外で課税されなくても日本国内での確定申告で納税することになりますから、税制面の優位性もありません。

結論としては、大きな金額を海外で運用したい、海外の収入の受取口座が必要といった明確な理由があり、英語力をある程度持つ人以外は海外口座は不要です。危機感を煽られ、きちんと研究もしないまま、なんとなく口座開設するのだけは避けましょう。

海外口座にはメリットもありますが、デメリットも存在するのです。

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