はじめに
遺族からの連絡
それから2ヵ月ほどたったあるとき、彼女のもとに彼の兄だと名乗る人物がやってきました。
「彼の携帯から私の存在がバレてしまったようです。奥さんの代理だと言っていました。彼が私にプレゼントしたものやごちそうしたお金を返せ、と。彼がいなくなって会社は経営不振に陥り、家族も大変な目にあっているって。怖かった。だけど返せるほど金目のものはありませんし、外でごちそうにはなったけど、うちで食事をするときは私が食材などを買っていた。そういう話をしようとしたんですが、相手は聞く耳を持ちませんでした」
社内の人にそれとなく彼の会社のことを聞くと、社長の座をめぐって社員と彼の兄が揉めているとか。
「彼がかわいそうになりました。弁護士さんに相談したら、いただいたものを返す義務はないというので、スカーフや指輪は今も大切にとってあります」
彼女にとって、彼は本当に大事な人でした。愛し、愛された記憶もまだ消えません。なにより彼を失ってからアイコさんは3ヵ月で8キロも痩せてしまったそう。
「彼が亡くなって1年ほどは何を見ても泣けて困りました。一緒に行った場所、一緒に聴いた音楽、彼が好きだったイタリアンのお店の前を通っただけで泣けてくる。私、ひとりで生きていけるだろうかと思ったこともあります」
最近、ようやく少しずつ彼のことも思い出せるようになってきたという彼女、そこまで人を愛したことを誇りに思っていいんだよと友人に言われて、やっと前に進もうという気持ちがわいてきたそうです。