はじめに

緊縮財政が招く人的被害

緊縮財政政策の弊害は、緊急事態宣言の発動にあわせて行われた経済対策にも表れました。4月の緊急事態宣言による広範囲な経済活動自粛への対応として策定された補正予算には、全国民への10万円支給(12兆円規模)、中小企業への支給金(2兆円規模)など即効性がある政府支出が含まれています。

ただ、限定された世帯への30万円支給(4兆円規模)で決まる寸前になって、全国民10万円支給に修正され補正予算が組み替えられる、という前代未聞の経緯がありました。緊縮的な財政政策を志向する政治勢力が、戦後最大規模の感染症と経済活動の落ち込み、という危機時における必要な政策対応実現の大きな障害になっているようにみえます。

5月末まで緊急事態宣言を延長されますが、感染拡大防止一辺倒ではなく、経済再開の条件や道筋をはっきり政府が示すべきと考えます。そして、経済活動抑制を続ける期間には、追加で広範囲な所得補償を中心とした財政政策の発動が必要でしょう。

ただ、5月7日時点で、安倍政権から具体的な追加財政政策は発表されていません。感染拡大を抑制するために必要な即効性がある財政支出を、米国と同規模に行うことが必要と思われます。

残念ながら、日本においては、「経済活動の自粛強要」が「不十分な所得補償(財政政策)」と併せて行われ、それが感染拡大抑制の障害になりつつあるようにみえます。

そして、新型コロナウイルス感染そのものの人的被害よりも、自粛強要を続けながら不十分な財政政策しか発動されないことが招く人的被害が、今後大きくなりかねません。これが、危機に直面する今の日本の最大の問題の一つだと筆者は考えています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

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