はじめに
「好きだから心許したのに」と言われて
彼とは結婚しているわけでも婚約しているわけでもありません。それなのに簡単にお金を貸してほしいと言ってくる彼に、彼女はひっかかるものがありました。
「そのとき彼が、『こんなこと、アオイにしか頼めないんだよ。おれが心許しているのはアオイだけなんだから』と言ったんですよね。そりゃあ、男友だちに頼んだら、のちのちの関係に響くかもしれないから頼めないでしょう。実家とはあまりうまくいっていないと言っていたから、プライドが邪魔して言えない。結局、私に言ったのは心を許しているというよりは、私との関係を大事に思っていないからではないかなと思ってしまったんです」
本当に大事な関係だから借金を頼まないのか、あるいは大事な関係だからこそすべてをさらけ出して借金を頼もうとするのか、そこはむずかしいところです。ただ、借金を頼んだら、その人との関係は明らかに変わります。対等からは遠ざかるかもしれません。それでもきちんとした姿勢だったら感じ方も違ったでしょう。
「彼の場合は生活費。収入がなくなったのはわかるけど、ネットを見ると日給のバイトもあって。彼にバイトもあるよと言ったら、『そういうのって肉体労働でしょ。オレ、向いてないんだよね』って。それでいて人に生活費を貸せというのか、とがっかりしました」
どんなに努力してもどうにもならなくなっているなら、女性も考える余地はあります。でも、日銭を稼ぐことを厭う男性と将来をと思うと不安です。
「いろいろな考え方はあると思うけど、私はサバイバルできないってひっかかってしまう。不器用な生き方でもいいから、必死に自分でがんばる人のほうがステキ。だから考え抜いたけど、あなたに貸すお金はないと言いました。私だって貯金がたくさんあるわけじゃないし、これからの不安もあるしって。そうしたら彼、『オレを見捨てるわけ?』と言ったんですよね。『元気なんだから、自分の生活くらい自分で考えなさい』と電話を切りました」
しばらくたって、彼からは「考え直した。ごめん」と連絡が来たそう。ですが、共通の知り合いによれば、やはり友だちに少額ずつ借りて歩いているようです。
「もうダメですね。好きな道でがんばっている人だと思っていたけど、実はきちんと働けないだけの人だったのかもしれない。今は会っていないけど、この先、会える状態になったとしても、もう彼にときめかない自分がいるとわかってしまいました」
新型コロナウイルスは、さまざまな人間関係を淘汰していくのかもしれません。相手がどういう姿勢が生きようとしているのか、どんな価値観をもっているのか、そういうことまで炙り出しているように思えます。