はじめに
夜中に呼び出されても駆けつけた
自ら「都合のいい女」と納得した上で、不公平な関係に飛び込んでいったハルコさん。
「それでも彼とふたりで食事に行ったり飲みに行ったりすることもあるし、ふだんは自分がないがしろにされているとは思えませんでした。普通の恋人みたいだった。週末、彼から映画を観に行かないかと誘いの連絡があったりしたし」
それでも、やはりいちばんではないと痛感させられることもあったと言います。たとえば彼の誕生日、クリスマスなどは一緒に過ごせません。
「それはちょっと寂しかった。だから日付けが変わって彼の誕生日になった瞬間、メッセージを送っていました。彼はありがとうってうれしそうだった。私の誕生日は彼がレストランを予約して祝ってくれましたよ」
ただ、1年半ほどたったころ、彼は転職し、ひどく忙しくなっていきました。なかなか会う時間がとれず、会ってもげっそりしていて以前ほど楽しい時間が過ごせなくなっていきます。
「私にできることはない? といつも尋ねていました。彼から夜中に『すごく熱がある』と連絡を受けて、家にあった解熱剤や保冷剤などをもって駆けつけ、朝まで看病したこともあります。朝、熱が下がっているのを確認、野菜ジュースとおかゆを作ってそっと部屋を出ました。鍵をかけて部屋の新聞受けに鍵を落とし、一度、家に帰ってから出社。私、何をやっているんだろう、決して正式な恋人にはなれないのにと涙がこぼれました」
彼は少しずつ、彼女に甘えるようになっていきます。夜中に電話をかけてきて、「タクシー代、出すから今から来ない?」ということも増えました。彼女がタクシー代をもらったことは一度もありません。
「それでもいいんです、私がそれをよしとして幸せだったんだから」
〇〇の鰻が食べたい、買ってきてくれないかな、一緒に食べようよ。そんなメッセージが来たときも、彼女は彼が指定した店でいちばん高い鰻を買って飛んでいきました。
大事なときに気がついて
ハルコさんは自分が具合が悪くても寂しくても、彼に何かを要求したことはありません。ところが昨年暮れ、ハルコさんの大好きな祖父が急逝したと母親から連絡がありました。祖父は遠方に住んでおり、夜中だったためどうすることもできません。
「お正月に帰ることを楽しみにしてくれていたのに。ショックすぎて涙も出なかった。ひとりではどうにもならない気持ちだったので、彼にメッセージを送ったんです。でも朝まで返信はありませんでした」
朝イチで家を飛び出して空港に行った彼女、そこで彼からの返信を読みました。慰めの言葉は書いてあったものの、彼女の心には届いてこなかったといいます。
「なぜか祖父が、そういう関係はやめなさいと言っているような気がしました。そうだね、やめる。それきり彼に連絡するのはやめたんです。彼からは心配するメッセージが来ていましたけど返信しませんでした」