はじめに

発表が遅い日本政府の経済統計

一方、今週判明した日本の経済活動の落ち込みは、株式市場などの投資判断に及ぼす影響はほとんどないでしょう。まず、NY州などで経済活動が止まった3月後半までに急落していた世界の株式市場は、一足早く大きな経済ショックを織り込んでいました。

現在の世界の株式市場の焦点は経済復調がスムーズに続くかどうかですが、日本では回復度合いを確認できる定量的な政府統計はまだほとんど発表されていません。

これは、官庁が作成する重要経済指標が発表されるタイミングが、米国など他国と比べて総じて遅いことの弊害と言えます。

例えば、企業の生産活動や個人消費と同様に、5月失業率が今週日本では発表されました。ただ、米国では6月早々に判明している雇用統計で、5月に失業率が低下、雇用が増加していたことが示されていました。

Google社などの位置情報が示す、経済封鎖そしてその後の解除で経済活動がどうなっているかを早く掴むことができる移動指数があります。これで、各国で経済活動再開が5月半ばから始まっていることが、ほぼリアルタイムで金融市場では確認されています。

発表が遅い日本政府の経済統計は、元々金融市場で情報価値が相当低いのですが、リアルタイムでの経済情勢把握が可能になり、日本の政府統計の存在価値は一段と低くなっています。

日本では、経済統計を作成する官庁が多くにまたがるなど、典型的な縦割り行政が弊害となっており、日本の経済統計の公表が遅いだけではなく、さらに精度も総じて低いことにつながっている、と筆者は長年強い問題意識を持っています。

日本の経済指標が金融市場において投資判断の材料にならないだけなら、弊害は小さいでしょう。ただ、雇用、個人消費、企業生産活動、など重要経済指標の発表が総じて米国などより遅いことの積み重ねは、経済情勢への認識そして政策判断の遅れを招きかねません。

実際に、今の景気後退を決定付けた2019年10月の消費増税その後のコロナ禍によって、日本の経済情勢は急速に悪化しましたが、増税後の経済の停滞を安倍政権は正確に把握していたのでしょうか?

先述した景気対策として現金補償金給付の仕組み構築をしてこなかったことに加えて、的確な経済情勢判断を可能にする体制を他国並みに整えていなかった、歴代政権と官庁の不作為がコロナ禍によって浮き彫りなったと筆者は見ています。

日本でも雇用削減が避けられない

5月の失業率は2.9%と、2019年末(2.2%)から0.7%上昇して2017年以来の高い水準まで悪化しました。リーマンショックを超える経済ショックが起きたわけで、これが労働市場に波及するのは避けられません。日本では、就業者数が緊急事態宣言が発動された4月から5月にかけてほぼ100万人減少、これは就業者の約1.5%に相当します。

一方で、激しい雇用削減が起きた米国では、5月までに約13%就業者が激減したことと比べれば、日本における雇用調整はマイルドにとどまっています。

米国での大幅な雇用調整は、企業による解雇のハードルが低くまた失業給付金の増額などの対応が一時的な失業を加速させた、の2つが影響しました。日本では大企業の雇用削減を行うハードルが高い、失業者の所得補償を手厚く行う対応が行われなかった、これらが日米の失業率変動の大きな差になっています。

日本では、多くの企業は大変な苦境に陥っている中でも、雇用削減がまだ広範囲に広がっていないと言えます。ただ、経済停滞が続けば企業自身の存続が厳しくなるため、雇用削減は避けられないでしょう。

雇用関係が維持されても休業扱いとなっている人は4月に大きく増え、5月にも423万人存在しています。6月からこの休業者の一部は仕事を得られるでしょうが、そのまま失職に至る方もいるでしょう。

仮に休業者の30%が失業すれば、失業率は5%近くまで一挙に上昇しリーマンショック後と同様に労働市場が悪化します。

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